監修:税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所
中川 祥瑛 監修:税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所
中川 祥瑛
今週のピックアップ
【 税務情報 】
◆ この記事で分かること
◆ はじめに
◆ 年末調整では、どの工程に時間がかかる?
◆ どのような間違いが起こりやすい?
◆ 差戻しを減らすため、何を事前に確認する?
◆ 年末調整の準備は、いつから何を始める?
◆ 問い合わせを減らす案内は、どう作る?
◆ 電子化では何を減らすべき?
◆ 日頃から整える人事情報・給与情報
◆ 判断に迷ったときは誰に相談する?
◆ おわりに:2026年分の年末調整で重要な7つのポイント
【 KING OF TIME 情報 】
◆ 年末調整機能のご紹介
【 最新の法改正・労務トラブル防止の情報を定期的にお届け 】
「知らなかった」で後悔しないために。最新の法改正情報を効率よくキャッチしませんか?実務で本当に必要なポイントだけを、社労士・税理士が分かりやすく解説します。
この記事で分かること
・年末調整で担当者の時間を奪う工程と、よくある間違いの原因
・差戻しを減らすために事前確認しておきたい5項目
・電子化・XMLファイル活用で減らすべき負担と、マイナポータル連携の準備
・問い合わせを減らす従業員案内の作り方と、今から逆算する準備スケジュール
・判断に迷ったときの相談先
年末調整で担当者の時間を奪うのは、年税額の計算そのものよりも、申告内容の不備、問い合わせ、転記、差戻しです。12月に処理を急ぐのではなく、対象者の確認、必要書類の案内、従業員情報の更新を早い段階から進めることが、負担を減らす近道になります。
はじめに
「今年も、申告書のチェックや差戻しに追われる年末になりそうだ」――年末調整の担当者なら、心当たりがあるのではないでしょうか。
2026年8月6日、税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所の税理士・中川祥瑛先生を講師に迎え、年末調整セミナーを開催しました。後編となる本記事のテーマは、改正内容をどう実務に落とし込むかです。中川先生がセミナー全体を通じて繰り返されたメッセージは一貫していました。「12月の処理を速くするのではなく、確認・転記・差戻しを減らす」。その具体策をお届けします。
年末調整では、どの工程に時間がかかる?
年末調整は10の工程で進みます。前半と後半に分けて見ていきましょう。
①〜⑥ 情報を確認する工程
① 従業員情報の整備
② 制度改正の確認
③ 従業員への事前案内
④ 申告書・証明書の回収
⑤ 申告内容の確認
⑥ 不備の差戻し
⑦〜⑩ 計算・書類を作成する工程
⑦ 年税額の計算
⑧ 給与への反映
⑨ 源泉徴収票等の作成
⑩ 書類・データの保存
この工程の中で担当者が最も時間を費やすのは、後半の計算ではなく前半の①〜⑥です。担当者が多忙となる主な原因は、計算そのものよりも情報の不備・記載誤り・問い合わせ・差戻しにあります。回収した後に不備があった場合に従業員に再度確認する作業が特に時間を要します。
つまり年末調整の負担は、12月の計算処理そのものではなくそれ以前の準備の質で決まります。以下、①〜⑥の負担をどう軽くするかを順に見ていきます。
どのような間違いが起こりやすい?
年末調整の間違いは、従業員側と担当者側の両方で発生します。典型的なパターンは次のとおりです。
従業員側でよくある間違い
・収入と所得の混同
・前職源泉徴収票の未提出
・扶養親族の収入見込みが古い
・保険料控除証明書の不足
・同じ証明書の重複申告
担当者側でよくある間違い
・前年情報の流用
・システム上の扶養情報と申告内容の照合漏れ
・紙とシステムの二重入力による転記ミス
・差戻し理由が従業員に伝わらない
並べてみると、多くの場合は情報が古いことや転記の回数が多いことが背景にあります。
従業員側の間違いは、判定基準が毎年変わるにもかかわらず「昨年と同じ」で申告してしまうことから発生します。担当者側の「前年情報の流用」は、今年は特に注意が必要です。前編で見たとおり、家族構成が変わっていなくても、所得要件が変わっているためです。
もう一点、見落としやすいのが差戻し理由の伝え方です。なぜ差戻しされているのか分からないと、従業員は不満を感じやすくなります。「今回はこういう理由で一度差戻しています」ということを、きちんと伝えるようにしましょう。従業員側と担当者側の連携を円滑にしていくことが、社内の不満を減らす一要素にもなります。
差戻しを減らすため、何を事前に確認する?
12月に発見する不備を、9〜10月に前倒しする。そのために確認しておきたいのが次の5項目です。
①対象者・対象外の判定
・対象:年末まで勤務する人/中途入社者
・対象外:年途中退職者(ただし死亡退職は対象)・2か所以上から給与を受けている人(従たる給与)・乙欄適用者・給与収入2,000万円超の人・非居住者
・対象外の人には「確定申告が必要になる場合がある」と早めに案内する
②中途入社者の前職源泉徴収票
・前職分を含めるかで年税額が大きく変わる
・支払金額・社会保険料・源泉徴収税額、退職日と入社日、前職が複数ないか、氏名・住所の一致を確認
・未提出なら前職分を含めた年末調整はできず、本人が確定申告することになる
③配偶者・扶養親族の情報
・結婚・離婚
・出生・死亡
・就職・退職
・配偶者の働き方の変更
・子のアルバイト収入
・同居・別居
・海外居住親族の有無
「昨年と同じ」を前提にせず、ほぼゼロベースで確認する
④保険料控除証明書
・控除区分(新契約・旧契約)
・証明額と申告額の取り違え(9月分までの支払済額と12月末までの見込額)に注意
・契約者名だけで判断しない
・保険金受取人を確認する
・国民年金保険料は証明書の添付が必須
⑤住宅ローン控除
・初年度は原則確定申告、2年目以降は申告書+年末残高等証明書で年末調整可
・連帯債務・借換え・繰上返済・増改築の有無を確認し、対象者を事前にリストアップする
②の前職源泉徴収票は、入社のタイミングで「前職の源泉徴収票をもらってください」とアナウンスしておくと確実です。④の保険料控除証明書は、証明書の「どの金額を書くか」まで案内すると差戻しを減らすことができます。⑤の住宅ローン控除は、令和5年以降に入居した従業員においては、金融機関が残高情報を税務署へ直接提供する「調書方式」により年末残高等証明書が本人に届かない場合があるため、証明書の要否・有無まで事前に確認しておくと安心です。
年末調整の準備は、いつから何を始める?
年末調整の準備は、8~9月から逆算して進めます。
8~9月
・年末調整方法とスケジュールの決定
・システム設定・更新状況の確認
・電子化・XMLファイルの対象範囲決定
・昨年の問い合わせ・差戻しの分析
・社内・税理士・システム会社の役割整理
・8月末~9月頃公表の「令和8年分 年末調整のしかた」を確認
9~10月
・従業員へ事前案内
・マイナポータル連携・XMLファイル取得方法の案内
・扶養親族等の収入見込み確認の周知
10~11月
・申告受付開始
・未提出者へのリマインド
・不備があれば具体的な理由とともに早期に差戻す
11〜12月
・最終確認
・年税額計算
・12月給与・賞与への反映
・源泉徴収票等の作成
・書類・データの保存
ただし、案内は「早ければ早いほどよい」わけではありません。8月に扶養控除等申告書を配布した事例では、従業員が忘れてしまったり、かえって回収しづらくなったケースもありました。配布は9〜10月、回収期限を明確に決めて案内するのが現実的です。また、前年の問い合わせ内容を次年度の案内に反映していくと、毎年少しずつ負担は軽くなっていきます。
問い合わせを減らす案内は、どう作る?
問い合わせの原因の多くは、制度の難しさではありません。多くの場合、案内の仕方に原因があります。案内が遅い、説明が一度きり、提出方法が複数あるのに整理されていない、締切だけ伝えている、昨年との変更点が伝わっていない、問い合わせ先が明確でない――いずれも案内方法に課題があります。
ポイントは、案内を「制度の説明」ではなく「従業員が行う操作」で書くことです。
分かりにくい例:「控除証明書の電子的交付に対応しています」
分かりやすい例:「保険会社からXMLファイルの控除証明書を取得できる場合は、年末調整システムへデータを取り込んでください。紙の証明書を見ながら金額を入力する必要がなくなります」
案内に入れる要素は、対象者/提出期限/操作手順/必要書類/よくある間違い/問い合わせ先の6点です。加えて、操作画面のスクリーンショットや操作動画を用意できれば、問い合わせはさらに減らせます。
電子化では何を減らすべき?
紙で運用すると、同じ情報を何度も転記・照合することになります。従業員が控除証明書を見ながら転記し、担当者が申告書と証明書を照合し、給与システムへ再入力します。そして、記載漏れや金額誤りによる差戻しが発生します。加えて原本の回収・整理・保管も必要です。結果として転記・入力ミスが発生し、進捗状況が担当者にしか分からないため確認作業が年末に集中します。
ここで押さえておきたい視点があります。減らすべきは紙そのものではなく、転記と照合の回数です。
減らす対象を整理すると、転記・照合・入力ミス・差戻し、そして「進捗が担当者にしか分からない」という状態の5つです。
■XMLファイルはPDFと何が違う?
この「転記と照合を減らす」ための代表的な手段が、XMLファイルの活用です。聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれませんが、まずはXMLファイルとPDFの違いから確認しましょう。
XMLファイルとは、控除証明書の内容を、システムで読み取れる形式にした電子データです。生命保険料・地震保険料・国民年金保険料・小規模企業共済等掛金・住宅ローン関係などの控除証明書が、電子データでの交付・提出に対応しています。
説明時のポイントは1つだけです。XMLファイルは、紙をPDF化したものではありません。PDFは紙を文書化したもので、システムにはそのまま取り込めません。取り込めるのはXMLファイルです。保険会社等が発行したデータを従業員が保険会社のマイページ等で取得し、年末調整システムに取り込めば控除申告書へ自動反映されます。従業員は入力項目が減って転記誤りが起こりにくくなり、担当者も照合作業が減って差戻し件数や書類の整理・保管の負担が軽くなります。電子化を進めることで、従業員・担当者双方の確認・転記・差戻しが減って、理想的な形に近づけられます。
このXMLファイルを取得する方法の一つが、マイナポータル連携です。
■マイナポータル連携で必要な準備
マイナポータル連携を活用すると、対応する保険会社等の証明書情報をまとめて取得し、申告書に自動入力できます。便利な仕組みですが、導入にはいくつか注意点があります。
・マイナンバーカード・暗証番号・対応スマートフォンなどに加え、事前設定が必要
・すべての発行主体が対応しているとは限らず、発行時期も各社で異なる
・家族分の取得には代理人設定などが必要になる場合がある
事前設定の時間を見込んで、従業員への案内は9〜10月に開始するのが目安です。
■一斉に電子化する必要はない
全員・全書類を一度に電子化する必要はありません。紙とXMLファイルが混在した状態でも運用できます。ただし、次の3点には注意してください。
・同じ証明書を紙とXMLファイルで二重提出させない
・「電子提出済みの書類」と「原本提出が必要な書類」を区別する
・未対応者は例外として管理する
なお、XMLファイルでの資料回収から年末調整の電子化まで進んでいる企業は、実務の現場ではまだ多くありません。今年は5人、10人などと対象を絞って進めるだけでも、来年以降の負担軽減につながります。
参考:国税庁 年末調整手続の電子化に向けた取組について
参考:国税庁 マイナポータルと連携した年末調整手続
こうした電子化を進めるうえでも土台になるのが、日頃からの人事情報・給与情報の整備です。
日頃から整える人事情報・給与情報
年末調整のときに一から確認するのではなく、日頃から情報を更新しておけば、12月の確認作業は大きく減らせます。対象となる情報は次のとおりです。
・氏名・フリガナ/住所/生年月日/マイナンバー
・配偶者の有無/扶養親族/障害者・ひとり親・寡婦・勤労学生の区分/非居住者親族
・入社日・退職日/前職情報
・給与・賞与/社会保険料/住宅ローン控除情報
逆に情報が分散していると、確認と転記が増えます。住所は給与システムや人事管理システム、扶養情報は紙、入社情報はExcel、マイナンバーは別システム、証明書は紙のファイル――この状態では「どれが最新か分からない」という問題が必ず起こります。目指す状態は、①従業員本人が情報を更新でき、変更履歴を確認できる、②人事情報と給与情報が連携し、年末調整のときに登録済みの情報をそのまま利用できる、③申告から給与計算まで二重入力せず進捗や不備を一覧で確認できる、の3つです。
判断に迷ったときは誰に相談する?
「これは誰に頼めばいいのか」という線引きも、担当者が押さえておきたいポイントです。
| 確認したい内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 税額計算・控除の個別判断 | 税理士 |
| 税務署へ提出する書類(源泉徴収票・法定調書合計表など)の作成・提出代行 | 税理士(独占業務) |
| 社会保険・労働保険の手続き | 社会保険労務士 |
| 社会保険の加入・被扶養者認定 | 年金事務所 |
| 雇用保険の手続き(資格喪失届・離職票など) | 社会保険労務士(独占業務)・ハローワーク |
| システムの設定・操作 | システム提供会社 |
システム会社のサポート窓口が案内できるのは、一般的な制度情報と操作方法までです。個別の税額計算や控除の適用判断は、顧問税理士にご相談ください。年末調整計算のアウトソーシングも、税理士業務に該当する範囲は税理士が行います。
おわりに:2026年分の年末調整で重要な7つのポイント
最後に、2026年分の年末調整で重要なポイントを7点にまとめます。
1. 改正内容と最新様式を確認する
2. 給与収入と所得金額を区別する
3. 扶養・配偶者の収入見込みを早めに確認する
4. 前職源泉徴収票・控除証明書を早期に回収する
5. XMLファイルを利用するかを判断してから進める
6. 従業員への案内を早めに行う
7. 日頃から人事・給与情報を整備する
年末調整の負担は、12月の計算速度だけで決まるものではありません。まずは「今から逆算する案内スケジュール」に沿って、社内で「誰が・いつまでに・何を更新するか」を決めるところから始めてみてください。そのうえで年末調整のデジタル化・システム化を検討し、年々複雑になる実務を賢く乗り切っていきましょう。
KING OF TIME 情報
KING OF TIME 給与の年末調整機能は、本記事でご紹介した「確認・転記・差戻し」を減らす仕組みを備えています。KING OF TIME勤怠管理をすでにご利用中のお客様は、追加料金なしでこの年末調整機能をご利用いただけます。
また、年末調整で回収した控除証明書の保管にはKING OF TIME 電子契約、日頃からの人事情報整備にはKING OF TIME 人事労務も併せてご活用いただけます。
■「KING OF TIME 給与」:令和8年分の年末調整に向けた機能アップデート予定のお知らせ
年末調整機能は9月下旬にアップデート予定です。今年のアップデートではXMLファイルに関する利便性向上のアップデートも予定しています。
■【PDF/Word】従業員マニュアル(年末調整機能)
Word形式のマニュアルは、複製・編集が可能です。自社の運用に合わせて編集し、従業員への案内にご活用ください。
■年末調整で回収した各種控除書類の管理方法
KING OF TIME 電子契約を利用して控除証明書などをスキャナ保存することで、原本を破棄し、書類の保管・管理を効率化することができます。
■「適用日」「更新日」とは何ですか?
KING OF TIME 人事労務では、「適用日」により従業員情報の履歴を管理できます。
■従業員情報申請フォームの作成方法(申請フォーム設定)
KING OF TIME 人事労務では、住所変更や結婚などの身上変更を、従業員自身が申請できるフォームを作成できます。
セミナー講師紹介
税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所 社員税理士
一般社団法人中小企業成長支援センター代表理事
一般社団法人ライフデザイン協会代表理事
中川 祥瑛(なかがわ しょうえい)氏

1985年石川県加賀市生まれ。
2023年12月税理士法人総合経営サービスの代表税理士に就任。
税務の枠を超え「ゆりかごから墓場まで」を掲げた包括的なサポート体制の実現に取り組んでいる。これまでに、相続・家族信託、医療法人手続き、身元保証、老人ホーム紹介、補助金申請など、複数の社会的意義ある事業を企画・展開。 専門書を5冊出版し、外部研修・社内研修への登壇実績は累計1500回を超える。DC(確定拠出年金)導入支援はグループ全体で1000件超。
【著書】
■ 病医院のための税理士の選び方がわかる本(日本法令)
■ クリニックの各種変更手続ハンドブック(日本法令)
■ 基本と実務がよくわかる 小さな会社の給与計算と社会保険25-26年版(ナツメ社)
■ 身近な人が亡くなった時の相続手続きと届出のすべて(エッサム)








