監修:税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所
中川 祥瑛 監修:税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所
中川 祥瑛
今週のピックアップ
【 税務情報 】
◆ この記事で分かること
◆ はじめに
◆ 2026年分の年末調整では何が変わる?
◆ 「178万円の壁」はなぜこの金額なのか?
◆ 改正はいつから年末調整に反映される?
◆ 基礎控除と給与所得控除はどう変わる?
◆ 家族に関する改正では何を確認する?
◆ 所得税の壁と社会保険の壁は何が違う?
◆ おわりに:まず確認すべきはシステムと様式
【 KING OF TIME 情報 】
◆ 年末調整機能のご紹介
【 最新の法改正・労務トラブル防止の情報を定期的にお届け 】
「知らなかった」で後悔しないために。最新の法改正情報を効率よくキャッチしませんか?実務で本当に必要なポイントだけを、社労士・税理士が分かりやすく解説します。
この記事で分かること
・ 2026(令和8)年分の年末調整で変わることと、実務への反映時期
・ 「178万円の壁」の内訳と、この金額が全員に適用されるわけではない理由
・ 基礎控除・給与所得控除の見直し内容
・ 扶養親族・配偶者の所得要件、特定親族特別控除で確認すべきこと
・ 所得税・住民税・社会保険、それぞれの基準の違い
2026年分の年末調整では、基礎控除と給与所得控除の見直しにより、給与収入のみの方は所得税の非課税限度額が最大178万円まで引き上げられます。ただし178万円は全員に一律で適用される金額ではなく、住民税や社会保険の基準とも異なります。そのため、本人と扶養親族の所得見積額を正確に確認することが、これまで以上に重要になります。
はじめに
「178万円まで働いても税金はかからないんですよね?」――従業員からこう聞かれたとき、担当者はどこまで答えるべきでしょうか。
2026年8月6日、税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所の税理士・中川祥瑛先生を講師に迎え、年末調整セミナーを開催しました。おかげさまで多くの企業にご参加いただき、大変ご好評をいただいております。本ブログでは、その内容を前編・後編の2回に分けてお届けします。前編となる本記事では、2026年分の年末調整における「178万円の壁」を巡る疑問や、基礎控除・給与所得控除・社会保険の壁といった税制改正のポイントを解説します。
2026年分の年末調整では何が変わる?
令和8年度税制改正により、給与収入のみの方であれば、所得税の非課税ラインが178万円に引き上げられます。年末調整に影響する主な改正項目は次のとおりです。
| 主な改正項目 | 概要 |
|---|---|
| 基礎控除 | 本則62万円+特例加算で最大104万円 |
| 給与所得控除 | 最低保障額が最大74万円に |
| 配偶者・扶養親族の所得要件 | 58万円→62万円に引き上げ |
| 特定親族特別控除 | 対象となる所得範囲を見直し (62万円超123万円以下) |
| 生命保険料控除 | 23歳未満の扶養親族がいる場合の特例 (上限4万円→6万円) |
これらの改正はいずれも、2026年分(令和8年分)の申告書様式・年末調整システムに反映されて初めて実務に落とし込めます。ここで必ず確認すべき点は、申告書様式と年末調整システムが令和8年分に対応しているかです。近年は扶養関係の改正が続いているため、最新版で令和8年分の年末調整ができるかどうか、まず確認しましょう。
「178万円の壁」はなぜこの金額なのか?
178万円は、基礎控除104万円と給与所得控除74万円を合計した金額です。
| 控除 | 上限額 |
|---|---|
| 基礎控除104万円 | (本則62万円+特例加算42万円) |
| 給与所得控除の最低保障額 | 74万円(本則69万円+特例5万円) |
| 合計 | 178万円 |
給与収入が178万円の方であれば、計算はこうなります。
給与収入178万円 - 給与所得控除74万円 = 所得104万円
所得104万円 - 基礎控除104万円 = 課税所得0円
注意点としては、104万円も74万円も上限額である点です。所得や収入の水準によっては、この2つの控除がそれぞれ上限額に届かないケースもあり、合計が178万円を下回ることがあります(詳しくは後述)。178万円は、所得税がゼロになる給与収入の上限を指す金額です。
もう一点、「178万円まで税金がかからない」という表現そのものにも留意が必要です。住民税や社会保険は、所得税とは異なる基準で判定されます。178万円はあくまで所得税の基準であることについては、本記事の後半で改めて取り上げます。
改正はいつから年末調整に反映される?
「年収の壁」は103万円(改正前)→160万円(2025年分)→178万円(2026年分)と、2年連続で引き上げられてきました。今回の改正は原則として2026年12月1日施行・2026年分(令和8年分)の所得税から適用されます。ここに実務上の注意点があります。
・ 1〜11月の毎月の源泉徴収は変更なし(令和8年分の源泉徴収税額表を使用)
・ 12月の年末調整で、改正後の控除額により年税額を一括で再計算・精算
毎月の給与計算は従来の基準のまま進み、12月の年末調整で初めて改正が反映されます。これは2025年の改正でも同じ形でした。結果として、年末調整での還付額が大きくなる従業員が多くなる見込みです。
特例計算は金額の区分が多く複雑なため、手計算でのチェックには手間がかかり、システムでの対応が現実的です。ここで確認したいのは、アップデートの内容と時期だけではありません。システムが更新されても、担当者がすぐに使いこなせるとは限りません。更新内容と導入スケジュールを早めに確認し、実際に操作を確認する時間を確保しておきましょう。
基礎控除と給与所得控除はどう変わる?
前章で触れたとおり、178万円という金額は、基礎控除と給与所得控除という2つの控除の引き上げが重なって生まれています。それぞれの改正内容を確認していきます。
■基礎控除:最大104万円
・ 本則58万円→62万円(合計所得2,350万円以下・恒久措置)
・ 特例加算:合計所得489万円以下は一律42万円(令和8年・令和9年分の時限措置)
・ 合計所得489万円超655万円以下の特例加算は5万円(据え置き)
■給与所得控除:最低保障額74万円
・本則65万円→69万円(恒久措置)
・特例:+5万円(令和8年・令和9年分の時限措置)
・合わせて最低保障額は74万円(給与収入190万円以下の場合)
特例加算・特例部分はいずれも令和9年分までの措置で、令和10年分以降は上乗せの対象・金額が縮小される予定です(合計所得132万円以下への37万円の上乗せは恒久措置として残ります)。「今年と来年だけの措置」と理解しておくだけでも、年末調整に臨むスタンスは変わってきます。
■実務上の注意点
・ 「収入金額」と「所得金額」は異なる。給与収入のみでも給与所得控除後の金額で判定する
・ 489万円・655万円が区分の境目になるため、所得見積額の正確な記載がこれまで以上に重要になる
・ 年の途中で退職・転職した従業員は、前職分を含めた所得を確認する(前職の源泉徴収票を必ず回収)
・ 所得見積りの前提そのものが変わっているため、昨年の数字をそのまま使わないようにする
従業員の記載誤りとして最も起こりやすいのが、この「収入」と「所得」の混同です。所得を書く欄に収入の金額が書かれているケースは少なくありません。事前に給与事務担当者から「ここに書くのは所得です」と周知しておくだけで、差戻しは減るでしょう。
参考:国税庁 令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし
参考:国税庁 令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について
家族に関する改正では何を確認する?
基礎控除の引き上げに連動して、家族に関する控除も動きます。扶養親族・配偶者の所得要件、大学生年代の子の控除、生命保険料控除の特例――3つをまとめて確認しましょう。
■扶養親族・配偶者の所得要件は4万円引き上げ
| 区分 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 配偶者控除・扶養控除等の合計所得金額要件 | 58万円以下 | 62万円以下 |
| (給与収入のみの場合の目安) | 123万円以下 | 136万円以下 |
| 配偶者特別控除の下限 | 58万円超 | 62万円超(〜133万円以下) |
| 勤労学生控除 | 85万円以下 | 89万円以下 |
改正で新たに扶養の対象となる親族は、扶養控除等申告書の「異動月日及び事由」欄に「令和8年12月1日 改正」等と記載して提出を受けます。また11月30日以前に支払う給与では、この親族を「扶養親族等の数」に含めません。
繰り返しお伝えしたいのは次の点です。昨年の扶養の数や扶養親族の内容が変わっていなかったとしても、所得や扶養の要件が変わっている関係で、同じ計算にならないケースが考えられます。家族構成の変更有無だけで判断せず、新しい判定基準に当てはめ直すようにしましょう。
■19歳以上23歳未満の子は何を確認する?
大学生年代の子がいる家庭では、扶養控除と特定親族特別控除の関係を確認しておきましょう。
・ 合計所得62万円以下なら扶養控除(特定扶養親族)の対象
・ 合計所得62万円超123万円以下なら特定親族特別控除の対象(最大63万円を所得に応じて段階適用)
・ 「特定親族特別控除申告書」の提出が必要/複数人が同じ親族を対象にできない
・ 扶養控除等申告書は「源泉控除対象親族」を記載する様式に変更
複数人が同じ親族を対象にできないため、父・母のどちらで申告するかという判断が発生します。なお、従来の103万円を基準にせず、子のアルバイト収入見込みを具体的に確認する必要があります。
■23歳未満の扶養親族がいる場合の生命保険料控除
23歳未満の扶養親族がいる場合、新生命保険料に係る一般生命保険料控除の上限が4万円から6万円になります(旧生命保険料は対象外、控除全体の上限12万円は不変、適用期限は令和9年分まで)。この特例は、夫婦のどちらか一方が扶養に入れていれば、夫婦それぞれが適用できます。実務で気をつけたいのは様式です。保険料控除申告書に「23歳未満の扶養親族」の記載欄が追加されているため、旧様式のまま回収すると記載欄がなく、差戻しを招くおそれがあります。
所得税の壁と社会保険の壁は何が違う?
冒頭の「178万円まで働いても大丈夫ですか?」に、担当者はどう答えるべきか。ここが最も実務に直結する論点です。制度ごとに基準は異なっています。
| 確認する制度 | 主な基準 | 年末調整との関係 |
|---|---|---|
| 所得税 | 本人:給与収入178万円まで所得税ゼロ(判定は所得金額ベース) /扶養親族:給与収入136万円以下 | 控除額・年税額に直接影響 |
| 住民税 | 所得税とは異なる所得金額を基準に課税される(基礎控除43万円は据え置きであるため、非課税ラインは178万円より低く、給与収入110万円程度から課税され得る) | 年末調整では判定しない |
| 社会保険 | 130万円(年間収入額が基準、扶養認定) | 被扶養者認定に影響 |
さらに社会保険の制度も変更されます。本人が社会保険に加入するかどうかを分けていた賃金要件(月8.8万円、年収106万円相当)は、2026年10月に撤廃され、週20時間以上の勤務が加入の主基準になります(従業員51人以上の企業)。2027年10月以降は企業規模要件も段階的に撤廃される予定です。
したがって「178万円まで働いても大丈夫」は所得税の話としては正しくても、社会保険の扶養からは外れる可能性があります。実務では、社会保険の130万円のほうを基準に意識している従業員も少なくありません。年末に勤務日数を調整する従業員がいる場合は、178万円(所得税)・130万円(社会保険の扶養認定)・106万円(本人の社会保険加入、※年金制度改正法により2026年10月に撤廃決定済み)のどの基準で働いているのかを事前に整理しておくことが重要です。
■担当者の対応
・ 「178万円まで働いて大丈夫?」への回答は、所得税と社会保険を分けて説明する
・ 年末調整の扶養判定は税の基準のみで行う
・ 家族手当(配偶者手当など)の支給基準がどちらに連動しているかも、自社の制度に沿って確認する
おわりに:まず確認すべきはシステムと様式
前編では、セミナーの中から178万円の壁を中心とした税制改正のポイントと、所得税・住民税・社会保険それぞれの基準の違いをお届けしました。会社としてまず確認したいのは、給与計算システムと申告書様式が令和8年分に対応しているかどうかです。誰が・いつまでに更新するかを、8〜9月のうちに決めておくとよいでしょう。
後編では、従業員への案内の作り方や、税理士・社労士との役割分担といった実務面を扱います。
KING OF TIME 情報
本記事でご紹介したように、令和8年分の税制改正では、控除の判定基準が複雑になり、「収入」と「所得」の記載ミスによる影響も、これまで以上に大きくなっています。KING OF TIME 給与では、この判定を従業員が入力した収入金額から所得金額を自動計算する仕組みでサポートしており、令和8年分の税制改正内容にも対応いたします。すでにKING OF TIME 勤怠管理をご利用中の方であれば、追加料金なしで年末調整機能もご利用いただけます。
■年末調整機能のご紹介
デモツアーで年末調整機能を利用する手順をご確認いただけます。
■【2026年度版】年末調整導入ガイド
今年の改正ポイントと、KING OF TIMEシリーズでの年末調整のスケジュールを確認しておきましょう。
■「KING OF TIME 給与」:令和8年分の年末調整に向けた機能アップデート予定のお知らせ
年末調整機能は9月下旬に税制改正対応に加えて、利便性向上のためのアップデートを予定しています。
■管理者マニュアル
年末調整機能の詳しい操作手順は、管理者向けマニュアルからご確認いただけます。
セミナー講師紹介
税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所 社員税理士
一般社団法人中小企業成長支援センター代表理事
一般社団法人ライフデザイン協会代表理事
中川 祥瑛(なかがわ しょうえい)氏

1985年石川県加賀市生まれ。
2023年12月税理士法人総合経営サービスの代表税理士に就任。
税務の枠を超え「ゆりかごから墓場まで」を掲げた包括的なサポート体制の実現に取り組んでいる。これまでに、相続・家族信託、医療法人手続き、身元保証、老人ホーム紹介、補助金申請など、複数の社会的意義ある事業を企画・展開。 専門書を5冊出版し、外部研修・社内研修への登壇実績は累計1500回を超える。DC(確定拠出年金)導入支援はグループ全体で1000件超。
【著書】
■ 病医院のための税理士の選び方がわかる本(日本法令)
■ クリニックの各種変更手続ハンドブック(日本法令)
■ 基本と実務がよくわかる 小さな会社の給与計算と社会保険25-26年版(ナツメ社)
■ 身近な人が亡くなった時の相続手続きと届出のすべて(エッサム)








