監修:税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所
植松 伸 監修:税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所
植松 伸
今週のピックアップ
【 税務情報 】
◆ 令和8年分の年末調整、主な改正ポイント
◆ ひとつの基準では決まらない、所得税「178万円」の構造
◆ 所得税額への影響
◆ 配偶者控除、扶養控除の変更点
◆ 企業のシステム対応
◆ パート・アルバイト対応、税と社会保険の基準を整理
◆ まとめ
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令和8年分の年末調整、主な改正ポイント
税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所の植松です。
今回は「年末調整」の改正点についてです。
令和8年分の年末調整では、所得税の計算に関係する控除が見直されています。
今回の主な改正は、次の3点です。
・基礎控除の引き上げ
・給与所得控除の最低保障額の引き上げ
・扶養親族等の所得要件の改正
個人所得税については、ここ数年で大きな見直しが続いており、給与収入のみで所得税がかからない水準(いわゆる『103万円の壁』)も大きく見直されています。
令和7年分(2025年分)には160万円となり、令和8年分(2026年分)では178万円まで引き上げられました。
ただし、この「178万円」という数字も、単純にひとつの基準として決まっているわけではありません。基礎控除や給与所得控除など、複数の控除を組み合わせた結果として算出される金額です。
さらに、税金についても所得税と住民税では基準が異なり、社会保険についてはまた別の加入要件があります。
そのため、「178万円までなら大丈夫」と一律に考えることはできません。特にパート・アルバイトの働き方や、配偶者・扶養親族に関する判定では、どの制度の基準を見ているのかを整理する必要があります。
この記事では、上記の3つの改正を中心に、所得税額への影響や、配偶者・扶養親族に関する変更点、企業が年末調整に向けて確認しておきたいポイントを整理します。
ひとつの基準では決まらない、所得税「178万円」の構造
令和8年分の給与収入だけの場合、所得税がかからない水準は178万円となります。
ただし、この178万円は、ひとつの所得要件によって決まる金額ではありません。基礎控除と給与所得控除を組み合わせた結果として、この金額になります。
令和8年分では、基礎控除の最大額が104万円、給与所得控除の最低保障額が74万円となっています。
さらに詳しく見てみると、基礎控除104万円は、基礎控除62万円に特例による加算42万円を加えたものです。また、給与所得控除74万円についても、最低保障額69万円に特例による加算5万円が含まれています。
つまり、178万円は次のように計算されます。
基礎控除・・・・・計104万円=62万円+特例加算42万円
給与所得控除・・・計74万円=69万円+特例加算5万円
※上記の控除額は令和8年分・令和9年分に適用されます。
令和10年分以後は控除額が異なります。
以前は「基礎控除48万円+給与所得控除55万円=103万円」という、比較的シンプルな仕組みでした。現在は、複数の控除や特例を組み合わせて考える仕組みとなっているため、「178万円」という数字だけで判断するのではなく、所得に応じて適用される控除額などを確認する必要があります。
このように年末調整の実務では、従業員本人の所得だけでなく、配偶者や扶養親族の所得なども確認しながら、それぞれの控除が適用されるかを判定する必要があります。
所得税額への影響
今回の改正では、基礎控除の最大額が引き上げられただけでなく、その最大額が適用される所得の範囲も広がっています。
令和7年分では、基礎控除の最大額95万円が適用されるのは合計所得金額132万円以下でした。これに対して令和8年分では、基礎控除の最大額が104万円に引き上げられ、その最大額が適用される所得の範囲も合計所得金額489万円以下まで広がっています。
そのため、給与収入が500~600万円程度の方でも、今回の改正によって所得税額が減少するケースがあります。
ただし、実際の税額への影響は、給与収入だけでなく、配偶者や扶養親族の状況、その他の所得控除などによって異なります。
また、今回の改正は令和8年12月1日に施行されます。そのため、「令和8年分から改正」と聞くと、1月支給分の給与から源泉徴収税額が変わると思われがちですが、実際は異なります。
令和8年1月から11月までの給与については、改正前のルールに基づいて所得税が源泉徴収され、12月に行う年末調整で改正後の控除額を適用して精算することになります。
そのため、例年に比べて12月の年末調整による還付額(戻り分)が大きくなるケースが考えられます。昨年も同様でしたが、少し分かりにくい部分ですので、整理しておくとよいでしょう。
配偶者控除、扶養控除の変更点
配偶者控除や扶養控除に関係する所得要件についても、基礎控除や給与所得控除の見直しにあわせて、令和7年分から変更されています。
■扶養親族や同一生計配偶者
令和8年分では、扶養親族や同一生計配偶者の所得要件が、前年の58万円以下から62万円以下に引き上げられました。給与収入だけの場合では、123万円以下から136万円以下に変わっています。
■配偶者
配偶者については、所得が62万円を超えても、一定の範囲内であれば配偶者特別控除の対象となります。令和8年分では、配偶者の所得が62万円超133万円以下、給与収入だけの場合は136万円超207万円以下の範囲で、所得に応じて段階的に控除額が設定されています。
■19歳以上23歳未満の親族(主に大学生年代の子供など)
19歳以上23歳未満の親族については、扶養控除の対象となる所得要件を超えた場合でも、一定の範囲で「特定親族特別控除」を受けられる場合があります。令和8年分では、特定親族の所得が62万円超123万円以下、給与収入だけの場合は136万円超197万円以下の範囲で、所得に応じて段階的に控除額が設定されています。
このように、今回の改正では「本人の給与収入が178万円以下かどうか」だけでなく、従業員から提出される申告書に記載された配偶者や扶養親族の所得見込み、年齢などをもとに、それぞれの控除の適用を判定する必要があります。
年末調整を担当される方は、新しい申告書の記載項目や従業員への案内内容を確認するとともに、利用している年末調整システムが今回の改正に対応しているかを早めに把握しておきましょう。
企業のシステム対応
ここまで見てきた基礎控除・給与所得控除・配偶者控除・扶養控除の見直しは、給与計算ソフトや年末調整システムの設定・計算にも関係します。
多くのシステムでは、法改正にあわせて必要なアップデートが提供されますが、適用時期や対応方法はシステムによって異なります。利用しているシステムの提供元から案内が届いているかを確認し、必要なアップデートや設定変更があれば、年末調整の開始前に対応しておくことが大切です。
また、今回の改正では、本人の所得だけでなく、配偶者の所得、扶養親族の所得や年齢など、複数の情報をもとに控除の適用を判定する場面があります。
年末調整システムの中には、従業員が質問に回答することで、所得や家族の状況などに応じて適用される控除を自動で判定する機能を備えたものもあります。こうした機能を活用することで、担当者が一人ひとりの控除を手作業で判定する負担を減らすことができます。
一方で、システムを利用すれば、担当者が法改正を理解する必要がなくなるわけではありません。今回の改正で何が変わったのか、どのような情報が判定に必要なのかを把握したうえで、システムの設定や入力状況を確認することが必要です。
制度の細かな判定はシステムに任せ、担当者は制度のポイントを押さえたうえで、システムが正しく機能しているかを確認する。今回のように制度が複雑になった場合には、こうした役割分担が実務上重要になります。
パート・アルバイト対応、税と社会保険の基準を整理
基礎控除や給与所得控除の見直しにより、パート・アルバイトの方から「扶養の範囲でいくらまで働けるのか」という相談を受ける機会も増えると考えられます。
ただし、働く時間や収入を考える際には、所得税だけでなく社会保険についても確認が必要です。
社会保険には、勤務先の社会保険に加入するかどうかという基準と、配偶者などの社会保険の扶養に入れるかどうかという基準があります。
勤務先の社会保険については、通常の労働者の4分の3以上働く場合が原則ですが、4分の3未満でも、一定規模以上の企業では、週20時間以上働くなどの要件を満たすと加入対象となります。令和8年10月からは、この場合の月額8.8万円以上という賃金要件が撤廃されます。
一方、配偶者などの社会保険の扶養については、勤務先の社会保険とは別の基準があり、原則として年収130万円未満などの要件で判断されます。なお、19歳以上23歳未満の被扶養者については、年間収入の要件が150万円未満に緩和されています。
このように、税金と社会保険では基準が異なります。
また、同じ税金であっても所得税と住民税では課税される水準が異なるため、178万円で所得税がかからない場合でも住民税は別途課税される可能性がある点に注意が必要です。
「178万円までなら大丈夫」とひとつの数字だけで判断せず、それぞれの制度の基準を確認するよう周知することが大切です。
まとめ
今回の改正では、基礎控除や給与所得控除だけでなく、配偶者や扶養親族に関する所得要件なども見直されています。そのため、「178万円」というひとつの数字だけで判断するのではなく、所得税と社会保険など、それぞれの制度の基準を分けて考えることが大切です。
企業の担当者としては、制度の判定ロジックをすべて覚える必要はありませんが、改正のポイントを押さえ、それに照らして利用しているシステムや申告書の書式を早めに確認しておくことが、年末の業務を円滑に進める鍵となります。
監修者紹介
税理士法人TOTAL 総合経営サービス事務所 植松 伸
下町生まれの税理士の植松伸です。
税理士になる前は建設系の労働組合で働いていたので、建設業等の許認可や健康保険事務組合の知識もあり、それらの業務を弊社グループ内へつなぐことも大事にしています。
趣味は観賞魚飼育で、現在自宅に水槽が10個あります。
魚を眺めたり、水の音はとてもリラックスできるのですが、水槽の掃除等のメンテナンスに時間がかかるので、ちょっと増やしすぎたと反省する毎日です。










