監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
社会保険労務士 岩下 等 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
社会保険労務士 岩下 等
今週のピックアップ
【 労務情報 】
◆ はじめに
◆ この記事でわかること
◆ 勤怠の丸め処理とは?なぜ多くの企業が使ってきたのか
◆ 勤怠の丸め処理はなぜ原則違法なのか?
◆ 例外的に認められる丸めはどこまで?1か月単位の取扱い
◆ 打刻時刻と労働時間は同じではない
◆ 切り捨て丸めのリスク:未払い賃金の試算と裁判例
◆ 勤怠管理システムの「丸め機能」とどう向き合うか
◆ 丸め機能を使う前に確認したいチェックリスト
◆ まとめ
◆ よくある質問(FAQ)
【 KING OF TIME 情報 】
◆ 「KING OF TIME」での丸め処理の設定・打刻と労働時間の差異確認に役立つ機能
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はじめに
「勤怠の丸め処理(15分丸め・30分丸め)は昔から当たり前にやっている」――そう考えている人事労務担当者は少なくありません。しかし労働時間の丸め、特に切り捨ては、賃金全額払いの原則に反し、未払い賃金や労働基準監督署の指導といったリスクを抱えています。本記事では、丸めが原則違法となる理由、認められる例外、打刻時刻と労働時間の違い、過去の裁判例、勤怠管理システムの「丸め機能」との向き合い方を、根拠とともに整理します。
この記事でわかること
・勤怠の丸め処理が原則として認められない法的根拠
・例外的に認められる「1か月単位・時間外等の30分丸め」の正確な範囲
・打刻時刻と労働時間は同じではないという考え方
・切り捨て丸めが招く未払い賃金リスクの試算と裁判例
・勤怠管理システムの丸め機能を使う前に確認すべきチェックポイント
【結論】勤怠の丸め処理とは、労働時間の端数を切り捨て・切り上げて区切りのよい単位に整える処理です。労働基準法では労働時間を1分単位で把握するのが原則で、切り捨てによる丸めは賃金全額払いの原則に反し、原則として違法です。
例外は「1か月の時間外・休日・深夜労働の合計に生じた1時間未満の端数」を30分未満切り捨て・30分以上切り上げする場合に限られます。
勤怠の丸め処理とは?なぜ多くの企業が使ってきたのか
勤怠の丸め処理とは、打刻された時刻や労働時間に生じた分単位の端数を、5分・15分・30分などの区切りのよい単位にそろえる処理です。多くの勤怠管理システムに備わっている便利な機能ですが、設定を誤ると法令違反につながりかねない落とし穴があります。
丸め処理の具体例(切り捨てと切り上げ)
例えば定時が18時00分の会社で、ある従業員が18時13分に退勤打刻をしたとします。端数の13分をどう扱うかで結果が変わります。
・切り捨て:18時00分退勤として扱い、13分を労働時間に計上しない
・切り上げ:18時15分退勤として扱い、実際より2分多く計上する
同じ「丸め」でも切り捨てと切り上げでは意味がまったく異なり、この違いが適法・違法を分ける分岐点になります。
企業が丸めを使ってきた2つの理由
丸めが広く使われてきた背景には、給与計算の手間を省けることと、端数を切り捨てて賃金支払いを抑えられることの2つの動機があります。特に紙のタイムカードで集計していた時代には、計算負担の軽減というメリットがありました。
しかし勤怠管理システムが普及した現在、1分単位の集計は自動で行えます。計算の手間を理由に丸めを続ける合理性は薄れており、「切り捨てによる未払いリスク」というデメリットのほうが目立ちます。システム上で設定できることと、法令上問題なく運用できることは別だと意識しておく必要があります。
勤怠の丸め処理はなぜ原則違法なのか?
結論からいえば、労働時間を切り捨てる丸めは原則として違法です。根拠は、労働基準法が定める「賃金全額払いの原則」と、「労働時間は1分単位で把握する」という考え方にあります。
賃金全額払いの原則と1分単位の原則
労働基準法第24条は、賃金を全額支払うことを使用者に義務づけています(賃金全額払いの原則)。この原則から、労働時間は1分単位で正確に把握する必要があるとされ、厚生労働省も適正な把握と支払いを繰り返し注意喚起しています(労働時間を適正に把握し正しく賃金を支払いましょう(厚生労働省リーフレット))。
したがって、労働時間を切り捨てる運用は、切り捨てた分の賃金が支払われない状態を生み、この原則に反します。就業規則に「15分未満は切り捨てる」と定めていても、労働基準法に反する部分は無効です。労働基準法は強行法規であり、従業員本人の同意があっても切り捨てが適法になるわけではありません。
「切り上げ」は問題なく「切り捨て」が問題になる理由
丸めがすべて違法なわけではありません。問題になるのは、労働者に不利となる「切り捨て」です。先ほどの例で18時13分を18時15分に切り上げる処理は、本来より多く賃金を支払うことになり、労働者に有利なため問題ありません。厚生労働省のリーフレットでも、1日の労働時間について満たない分を切り上げて支払うことは差し支えないとされています。
つまり「丸め=違法」ではなく、「切り捨てによって実際の労働時間より少なく集計すること」が違法になる、と整理するのが正確です。
例外的に認められる丸めはどこまで?1か月単位の取扱い
切り捨てが原則違法なら、「30分丸めは認められている」というのは何を根拠にしているのか――そう思う方もいるでしょう。実は、事務処理の簡素化を目的として、ごく限られた範囲でのみ切り捨てを含む丸めが認められています。範囲を正確に理解しないと、認められない丸めまで「合法」と勘違いしてしまうため注意が必要です。
認められるのは「1か月単位・割増対象時間」のみ
行政通達(昭和63年3月14日付 基発第150号)では、1か月における時間外労働・休日労働・深夜労働それぞれの合計に1時間未満の端数が生じた場合に、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理が認められています。常に労働者の不利になるものではなく、事務簡便を目的とするためです。
ポイントは2つです。対象が「1か月単位」で合計した時間であること、そして「時間外・休日・深夜」という割増賃金の対象時間に限られることです。例えば1か月の時間外労働が合計10時間20分なら、20分を切り捨てて10時間として計算できます。なお、割増賃金の単価や合計額に生じる円未満・銭未満の端数処理も別途認められています。割増賃金の計算過程や遅刻・早退時の端数の扱いは、労働時間の端数処理について解説した記事もあわせてご覧ください。
やりがちな勘違い(1日単位の切り捨て・遅刻の丸め)
この取扱いは範囲が狭く、次のような運用は認められません。実務で頻発する誤解なので、下の表とあわせて自社の設定を確認してみてください。
・1日単位での切り捨て:「その日の残業が30分未満なら切り捨てる」という処理は対象外です。認められるのはあくまで1か月分を合計した後の端数に限られます。
・総労働時間が法定内の場合の切り捨て:認められるのは割増賃金の対象となる時間外・休日・深夜労働に対するもので、法定労働時間内の通常労働時間は丸められません。
・遅刻・早退の切り上げ控除:不就労分の1分単位の控除は可能ですが、5分の遅刻を15分として控除するなど実際より多く控除するのは認められません。
| 処理の種類 | 運用の実態 | 法的な扱い |
|---|---|---|
| 1日単位の残業切り捨て | その日の残業が25分なので30分未満として0分に切り捨てる | 原則違法 |
| 法定内労働時間の丸め | 法定労働時間内に収まる労働時間の端数を、1日または1か月単位で切り捨てる | 原則違法 |
| 遅刻・早退の切り上げ控除 | 5分の遅刻を15分とみなして賃金を控除する | 原則違法 |
| 1か月単位・割増対象の丸め | 1か月の時間外労働の合計の端数を30分未満切り捨て・30分以上切り上げ | 認められる |
| 労働者に有利な切り上げ | 退勤打刻を実際より遅い時刻に切り上げて計上する | 問題なし |
※「原則違法」は、賃金全額払いの原則に反し未払い賃金が生じうる処理を指します。
これらはいずれも、先ほどの1か月単位の取扱いとは別物です。例外として認められる丸めはあくまで限定的だと理解しておくことが、適切な運用の第一歩になります。
打刻時刻と労働時間は同じではない
丸めの議論は、つい「打刻された時間をどう削るか」という話になりがちです。しかしその前に、打刻時刻と労働時間は必ずしも一致しないという事実を押さえておく必要があります。丸めで帳尻を合わせるのではなく、どこからどこまでが労働時間かをルール化することが、適正な勤怠管理の出発点です。
労働時間とは「指揮命令下にある時間」
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。したがって、打刻された時刻のすべてが当然に労働時間になるわけではなく、逆に打刻に表れていなくても労働時間に該当する場合があります。次のようなケースは判断が分かれやすいため、実態に即した整理が必要です。
・早く出社しただけの時間:始業前に出社し自席で過ごしているだけなら、通常は労働時間といえません
・始業前の朝礼・清掃・準備:会社の指示で行う着替え・清掃・朝礼・準備作業は、労働時間に該当する可能性があります
・手待ち時間:業務指示があれば即対応を求められ、労働から離れられない待機時間は労働時間にあたります
打刻と実態がずれている場合の正しい対処は「丸めで削る」ことではなく、「労働時間の範囲をルール化し、実態に沿って記録する」ことです。なお、着替えや準備が労働時間にあたるかは業務上の義務づけの有無などケースごとの判断になり、この点は着替え時間と労働時間の考え方を解説した記事で詳しく取り上げています。「打刻=労働の開始ではない」という考え方の背景は、労働時間と拘束時間の違いを解説した記事も参考になります。
切り捨て丸めのリスク:未払い賃金の試算と裁判例
「1日数分の切り捨てくらい」と考えるのは危険です。わずかな端数も、人数と日数を掛け、時効の年数までさかのぼると無視できない金額になります。
「1日数分」がいくらになるかを試算してみる
1日あたり3分を切り捨てている会社を考えます。従業員100名、年間労働日数240日、時間外手当の単価を1時間1,500円とすると、次のようになります。
3分 × 100名 × 240日 ÷ 60分 = 1,200時間 1,200時間 × 1,500円 = 180万円/年
1日3分の切り捨てが、年間180万円の未払いにつながる計算です。賃金請求権の消滅時効は当面の間3年とされるため、是正を指導されれば3年分でおよそ540万円の支払いが必要になる可能性があります。この時効はいずれ5年へ延長される予定で、リスクは今後さらに大きくなり得ます。
丸めが違法とされた裁判例と、金額以外の負担
労働時間の切り捨てが違法とされた例に、医療機関に関する裁判例があります(名古屋地裁 平成31年2月14日判決)。残業について15分未満を切り捨てて計算していたところ、裁判所は、労働時間の端数処理は原則として許されず1分単位で把握すべきであり、一定単位未満の切り捨てで実労働時間より少なく集計することは認められないとして、未払い残業代の支払いを命じました。
リスクは金銭面にとどまりません。過去データの再計算や運用見直しの事務負担が発生し、悪質と判断されれば企業名が公表され、信用低下や採用への悪影響にもつながりかねません。厚生労働省も継続的に注意喚起しており、行政の関心は引き続き高い分野です。
勤怠管理システムの「丸め機能」とどう向き合うか
では丸め機能のあるシステムは危険なのか――問題は機能の有無ではなく、使い方にあります。機能があること自体は適法ですが、安易に切り捨て設定を行えば法令違反につながる、という線引きの理解が欠かせません。
「機能がある=使ってよい」ではない
多くのシステムで、丸めは数クリックで有効にできてしまいます。その手軽さゆえ、法的な意味を十分理解しないまま設定するケースが見られます。近年は、丸め機能を初期状態で制限したり利用時に注意を促したりするシステムも登場しており、こうした設計はコンプライアンス重視の企業がシステムを選ぶ判断材料になります。仮にユーザー側で自由に設定できる場合でも、その自由度は「設定が適法かを自社で判断する責任」を伴います。重要なのは、機能を使えるかどうかではなく、適法な範囲でしか使わない運用を徹底できるかです。
丸めに頼らず時間外労働を適正化する運用の工夫
1分単位で集計すると、切り捨てをやめた分だけ時間外労働が増えて見えることがあります。これを丸めで圧縮するのではなく、運用で適正化するのが本来の姿です。
・速やかな退勤打刻の習慣化:業務を終えたらすぐ打刻する文化を根づかせ、打刻と実態の乖離を減らす
・残業申請制の導入:時間外労働は申請・承認制に。ただし申請しづらい雰囲気は隠れ残業を招くため、申請しやすい風土が前提です
・固定残業制の検討:一定時間までの残業代を固定支給する方式。導入時は従業員への丁寧な説明が不可欠です
勤怠管理システムは、丸めで労働時間を削るためではなく、1分単位の正確な集計とこうした運用を支えるために活用するのが本筋です。
丸め機能を使う前に確認したいチェックリスト
自社の勤怠設定が適法な範囲に収まっているかは、次の観点で点検できます。丸めを使う・使わないにかかわらず、未払いリスクの芽を早期に見つけるのに役立ちます。
□日々の労働時間を、労働者に不利な形で切り捨てる設定になっていないか
□時間外労働を一定単位未満で申請・集計できない運用になっていないか
□遅刻・早退の控除が、実際の不就労時間を超えていないか
□就業規則・賃金規程と、勤怠システムの設定にズレがないか
□打刻時刻と労働時間の差分を、後から確認できる運用になっているか
□丸めを使う場合、労働者に有利な切り上げなど適法な範囲に限定されているか
□判断に迷う設定は、社会保険労務士や弁護士など専門家に確認しているか
まとめ
勤怠の丸め処理は便利な仕組みである一方、切り捨てによる丸めは賃金全額払いの原則に反し、原則として違法です。労働時間は1分単位で把握するのが大原則であり、認められる丸めは「1か月単位で合計した時間外・休日・深夜労働の端数を30分単位で処理する」など、ごく限られた範囲にすぎません。わずかな切り捨ても積み重なれば、多額の未払い賃金や行政指導、企業名公表につながります。
また、打刻時刻と労働時間は同じではないという視点も欠かせません。丸めで帳尻を合わせるのではなく、労働時間の範囲をルール化し、1分単位の正確な集計を土台に、退勤打刻の徹底や残業申請制で時間外労働を適正化していく――それが健全な労働時間管理への近道です。自社の勤怠設定が原則に沿っているか、この機会に確認してみてはいかがでしょうか。
よくある質問(FAQ)
Q. 勤怠の15分丸めは違法ですか?
A. 労働時間を15分単位で切り捨てる運用は、賃金全額払いの原則に反し原則として違法です。労働時間は1分単位で把握するのが原則であり、切り捨てた分の賃金が未払いになるためです。一方、労働者に有利となる切り上げは問題ありません。
Q. 切り上げの丸めも問題になりますか?
A. なりません。退勤時刻を切り上げるなど、実際の労働時間より多く計上する処理は、本来より多く賃金を支払うことになり労働者に有利なため、法律上問題とされません。問題になるのはあくまで労働者に不利な切り捨てです。
Q. 1か月単位の30分丸めはどんなときに使えますか?
A. 1か月の時間外労働・休日労働・深夜労働それぞれの合計に1時間未満の端数が生じた場合に、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理が認められています(昭和63年通達 基発150号)。この切り捨てと切り上げはセットで行うことが前提で、30分未満の切り捨てだけを行う運用は認められません。また、1日単位の切り捨てや、法定労働時間内の通常労働時間の丸めには使えません。
Q. 勤怠管理システムの丸め機能はそもそも使わない方がよいですか?
A. 丸め機能を備えること自体は適法で、切り上げや1か月単位の取扱いなど適法な使い方もあります。ただし切り捨ては原則違法となるため、安易な利用は推奨されません。勤怠管理システムは1分単位の正確な集計のために活用し、時間外労働は運用面で適正化するのが望ましい姿です。
Q. 1分単位で集計すると残業時間が増えてしまいます。どうすればよいですか?
A. 丸めで圧縮するのではなく、運用面で適正化するのが本来の対応です。退勤後すみやかに打刻する習慣づけ、残業の申請・承認制、固定残業制の検討などにより、実態に即した形で時間外労働を減らしていくのが望ましい姿です。
KING OF TIME 情報
KING OF TIME も勤怠打刻の丸め処理を行う機能を備えていますが、ご利用にはサポートセンターへの機能追加依頼が必要です。
本記事でも解説したとおり、切り捨てによる丸めは原則として違法です。丸め機能をご利用の際には、利用者様の責任のもと、適法な範囲でご利用ください。
■ 出勤 / 退勤打刻時刻の丸めの設定方法
■ 休憩時間(時刻)の丸めの設定方法
■ 集計時間(月別データ、日別データ)の丸めの設定方法
また、KING OF TIME データ分析やKING OF TIME システムログを活用することで、打刻時刻と労働時間の差異を可視化することができ、健全な労働時間の管理にお役立ていただけます。
■ 「労働時間」 > [打刻とログの差異]タブの確認 / 操作方法
■ 「労働時間」 > [基準時刻と打刻(ログ / 入退室)の差異]タブの確認 / 操作方法
KING OF TIME 給与をご利用いただくと、KING OF TIME 勤怠管理で集計された勤怠情報をそのまま給与計算に連携させることができます。事前に設定を行っておくことで、分単位の残業手当も最短ワンクリックで計算完了できます。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。








