
本特集のピックアップ
◆ 年末調整における留意事項
◆ 電子化の活用について
◆ 実務対応のまとめ
◆ 重要ポイントの振り返りと今後の準備
はじめに
2025年8月6日と9月4日に、ヒューマンテクノロジーズ主催で「KING OF TIMEユーザー様必聴! 2025年、年末調整の法改正ポイントは?実務対応を踏まえて先取り!!」というセミナーを実施しました。
当日は、税理士法人総合経営サービス代表社員である中川祥瑛(なかがわ・しょうえい)先生にご登壇いただき、「今年の年末調整における税制改正の要点」や「『年収の壁(税制改正)』の変化と実務への影響」「電子化が進む年末調整の現状」などをご解説いただきました。
参加者の皆様からは「年末調整の準備ができた」「実務に役立つ」といったお声を多数いただき、大きな反響を実感しております。また、残念ながらご参加いただけなかった方からも多くのお問い合わせをいただきました。
そこで、参加できなかった方にも当日の内容をお届けしたく、急遽全3回にわたるレポートを公開することにいたしました。ぜひ、今後の実務にお役立てください。
今回はその3回目です。
●第1回
問い合わせが来る前に、先手を打つ。『還付額が増える理由』、従業員への説明準備はできていますか?
●第2回
【要注意】お子様のアルバイト収入、「103万円の壁」の認識はもう古いかもしれません。
●第3回
従業員のマイナンバーカード、眠らせていませんか?スマホひとつで申請が終わる、これからの常識
年末調整における留意事項
今年12月の年末調整での注意点をお伝えしていきます。
①改正により新たに扶養控除の対象になり得る親族がいないかの確認
今年は扶養と認められる所得の枠が拡大されています。昨年は所得要件から外れていた方が、今年は対象になる可能性があります。例えば、去年は配偶者特別控除だった方が、収入は変わらずとも今年は通常の配偶者控除に該当する場合があります。過去の認識で判断しないことが重要です。
新たに扶養控除の対象になる親族がいる場合は、その方にも扶養控除等申告書の提出が必要です。これまで所得要件で対象外だったため申告書を提出していなかった方も、対象になる可能性がありますので、ご注意ください。
提出期限は原則、12月最初の給与支払日の前日ですが、実務上は早めの準備が望ましいです。弊社では10月に案内し、11月中に収集、12月第1週に完了させるスケジュールで運用しています。各社でも収集のタイミングをご検討ください。
②「特定親族特別控除」に関する新しい申告書の提出依頼
年末調整でこの控除の適用を受ける従業員の方は、その年最後に給与の支払を受ける日の前日までに「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を給与の支払者に提出する必要があります。申告漏れがないよう周知してください。
従業員の方からの申し出を待つのではなく、会社側から対象となりうる従業員の方に働きかけ、「この控除に該当する可能性があるので申告書を提出してください」と促す対応が現実的です。実務的には、対象となりそうな従業員の方へ一律で書類を配付し、適用の有無は後から年末調整の担当者の皆様が判断する流れが最もスムーズです。
重要な注意点として、扶養控除は1人の親族に対して重複申告できません。例えば、ご夫婦それぞれが同一の親族(お子様など)を対象に控除を申告することは認められません。ご家庭内で事前にご相談のうえ、どちらか一方が申告するようご案内ください。
③改正後の基礎控除・給与所得控除に基づく年末調整の実施
これらの控除は所得に応じた段階的な計算が必要なため、改正の論点を正確に押さえて進める必要があります。
基礎控除申告書の提出を受けたら、合計所得と控除額が正しく記載されているかを確認してください。配偶者控除等についても、配偶者に給与所得がある場合は算出根拠が変わっているため、控除額が正しいか注意が必要です。
④各種申告書の内容確認
基礎控除や配偶者控除に関する申告書は大幅に改正される予定です。国税庁から新様式がリリースされたら、年末調整の担当者の皆様はいち早く内容を確認してください。
年末調整で使用する資料は、「給与所得控除後の給与等の金額の表」など、必ず改正後のものを使用します。基礎控除や特定親族特別控除は、従業員の方から提出された各申告書に基づき正しく控除してください。
特記事項として、源泉徴収簿はまだ新様式に対応していません。新様式は今後国税庁から発表される予定ですが、現行様式で進める場合は計算時に別途対応が必要になります。
最新情報の把握のため、国税庁のホームページは毎月の確認をお勧めします。
以上を踏まえると、手書きで年末調整の計算を行うことは非常に困難になっています。どの年末調整システムを選ぶか、いつ導入するかの判断が今まさに求められています。
電子化の活用について
年末調整の電子化をどこまで進めるかについては、早めに方針を検討しておくことをお勧めします。
まずマイナポータルの活用は、会社主導で何かをするというより、従業員の方が情報を集めるために使うものです。特に、住宅ローン控除や生命保険料控除の証明書を電子データで取得する場面で重要になります。従業員の方にマイナポータルを活用してもらうかどうか、その案内方針を社内で決めておいてください。
次にe-Taxです。税理士などに委託せず社内で年末調整を完結している場合は、e-Taxの利用登録を検討するとよいでしょう。電子納税(ダイレクト納付)も併せて登録すれば、申告から納税までをオンラインで完結でき、算出された税額を銀行口座から引き落とせます。年末年始の多忙な時期に銀行窓口へ行く手間が省けるメリットは大きいため、e-Taxへの対応は前向きに考えておくのが良いと思います。
最後に、KING OF TIMEのような既存システムとの連携です。KING OF TIMEなどで従業員の方の情報収集や勤怠管理を行っている場合、そのデータを活用して年末調整業務を自動化・効率化できます。重要なのはデータの流れをいかに効率化するかです。勤怠管理のデータをどう給与計算に落とし込み、さらにどう年末調整のデータとして連携させていくか。この一連のルートを今のうちから設計しておけば、年末に慌てることなくスムーズに業務を進められます。
実務対応のまとめ
実務対応として、必要な申告書と様式変更に備えた準備を徹底してください。年末調整で使う基礎控除申告書・配偶者控除申告書に加え、新設された特定親族特別控除の様式を確認し、内容を把握しておく必要があります。
従業員の方の収入は毎年大きく変動することがありますが、控除については前年との比較に時間を割いて確認してください。例えば、前年に扶養控除申告書と配偶者控除申告書が提出されていた場合、今年も提出があるか、新たに特定親族特別控除の書類が出ているかなど、前年との様式比較は必ず行うべき論点です。
申告書の受理時には、所得要件を細かく確認します。これまでも、年末調整の段階で親族の給与額が未確定のまま進めた結果、最終的に扶養の範囲から外れていたケースがありました。その場合、後日税務署から「扶養の計算が間違っていませんか」という通知が届き、再計算・再納付が生じました。
今年以降は、扶養の判定に加え、「控除の適用は正しいものの、金額が誤っている」という事態も想定されます。特定親族特別控除は収入が5万円ごとの段階制で、わずかな収入差で税額が大きく変わる可能性があります。そのため、所得の精緻な確認が不可欠です。扶養の方の所得を早めに確定できないと、年末調整が進まない恐れもあります。
各種申告書の新様式は、2025年分の年末調整から適用されます。2025年11月までは毎月の給与計算は従来どおりで、2025年12月の年末調整で初めて今回の法改正に対応する計算を行います。
来年以降は新しい税額表が出てくるはずです。2026年は年末調整が終わり、1月から税額表の改正があります。2025年だけが、毎月の給与計算に用いる税額表と年末調整の計算が一致していない年で、2026年からは一致します。
今回の改正は、
「2025年中の毎月の給与計算の方法」
「2025年度の年末調整の方法」
「2026年1月からの毎月の給与計算の方法」
「2026年の年末調整の方法」
と段階的に行われていくため、対応の難易度が上がっています。
給与計算・年末調整の担当者の皆様は、「どのタイミングでどの税額表を反映させなければならないか」を今のうちにスケジュールに落とし込み、想定される事象を自社で検討し始めると、スムーズに進められるでしょう。
重要ポイントの振り返りと今後の準備
最後に、本日の重要ポイントと今後の準備事項を確認します。
今回の改正の核心は「基礎控除」「給与所得控除」「特定親族特別控除」「扶養控除の所得要件」の4点で、いずれも従業員の方の手取り額に直接関わる重要な変更です。
この複雑な改正を実務に落とし込むには、皆様の会社で「いつ、何をすべきか」を明確にしたスケジュールとチェックリストを、今のうちから作成しておくことが不可欠です。
当面の対応としては、例えば
「2025年11月までの毎月の給与計算は、この税額表」
「2025年12月の年末調整は、このルールと様式」
「2026年1月からの毎月の給与計算は、この新しい税額表」
といった具体的なタスクを時系列で整理し、準備を進めていただければと思います。
また、今年の年末調整を機に、電子化を本格的に進めるかどうかの検討も必要です。少なくとも電子納税であるダイレクト納付については、今のうちからお調べのうえ申請手続きを進めることをお勧めします。
利用申請は受理まで1か月〜1か月半ほどかかります。電子化へ進む前提で早めに動き出すことが、最終的な時間短縮につながると思います。
セミナー講師紹介
税理士法人総合経営サービス 代表社員
一般社団法人中小企業成長支援センター代表理事
一般社団法人ライフデザイン協会代表理事
中川 祥瑛(なかがわ しょうえい)氏

石川県出身。法人・個人問わず決算・申告の最終チェックを担当し、節税・税務調査・相続対策に従事。現在は総合経営サービスグループ税理士法人の税務部門長を務め、セミナー講師も担当。経理業務のクラウド化・電子化などバックオフィス改善を推進し、枠にとらわれないサービスを提供。人材育成にも注力し、所内研修講師として累計1000回以上登壇している。
【著書】『病医院のための税理士の選び方がわかる本』
『小さな会社の給与計算と社会保険24-25年版』
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。