監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
今週のピックアップ
【労務情報】
◆パート・アルバイトでも当然に権利が発生
◆パートやアルバイトの有給休暇付与日数の考え方
◆週の所定労働日数や労働時間が定まっていない場合の付与日数は?
◆1日の労働時間がバラバラな場合に支払う有給休暇取得時の賃金は?
◆通常支払うべき賃金と平均賃金、どちらを選択すべき?
◆パートやアルバイトが正社員になった場合の有給休暇は?
◆有給休暇に関する罰則
【KING OF TIME 情報】
◆有休付与対象者とは
◆有給休暇付与機能の活用方法
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パート・アルバイトでも当然に権利が発生
法律上、年次有給休暇は、以下の要件を満たしたすべての労働者に対して付与する義務があります。
(1)雇い入れの日から6か月継続して雇われている。
(2)全労働日の8割以上出勤している。
そのため、パートやアルバイトであっても要件を満たした場合には、有給休暇を与えなくてはなりません。ただし、フルタイムの正社員と同じ日数を付与する必要はなく、所定労働時間に応じた付与方法が認められています。これを比例付与といいます。
一昔前であれば、アルバイトから有給休暇を請求されることは稀だっと思いますが、現在は、大学で労働法に関する講義があったり、求人サイトに有給休暇のルールが掲載されています。そのため、パート・アルバイトの方でも当然に有給休暇の権利が発生することを知っていると考え、きちんと法律に則った対応をする必要があります。
パートやアルバイトの有給休暇付与日数の考え方
パートやアルバイトの働き方は様々です。そのため、以下のように付与日数が決まっています。
(1)週の所定労働日が5日、または週所定労働時間が30時間以上
比例付与の対象とはならず、フルタイムの正社員と同様の日数を付与する必要があります。
所定労働日5日未満であれば、比例付与の対象と考えている方が多いですが、週の所定労働時間も考慮する必要がありますので、注意が必要です。
(2)週の所定労働日が4日以下かつ週の所定労働時間が30時間未満
週の所定労働日数に応じて付与する日数が決まります。付与日数については1日の労働時間には関係なく決まります。
例えば、次のようなケースを想定してみます。(入社6か月後の初回付与)
AさんとBさんは「週の所定労働日数が5日、または週所定労働日数が30時間以上」には該当しません。よって、比例付与の対象となります。
一方でCさんは、週の所定労働日数は4日ではありますが、週所定労働時間が32時間となりますので、比例付与の対象とはならず、フルタイムの正社員と同様の日数を付与することとなります。
比例付与の対象となるかどうかは、下図フローチャートをご参照ください。
週の所定労働日数や労働時間が定まっていない場合の付与日数は?
アルバイトをシフト制で働かせているような会社では、週の所定労働日数や労働時間が明確に定まっていないケースもあるかと思います。
平成16年に訪問介護労働者向けに出された行政通達(平成16年8月27日、基発0827001号)では、今後予定されている所定労働日数を算出しがたい場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出して構わないこと。また、入社後6か月経過後に付与される有給休暇については、過去6か月の労働日数の実績を2倍したものを1年間の所定労働日数とみなして判断して構わないとされています。
この行政通達は介護職向けに出されたものですが、介護職以外の業種でも同様に考えて差支えないと思います。
具体的には、有給休暇の付与日数は以下の通りとなります。
◎付与日数の考え方
例えば、入社してから半年までの労働実績が40日だったような場合、1年間に換算すると80日となりますので、3日の有給休暇付与をすることになります。
なお、原則として週所定労働日数に応じて付与することになっていますので、有給休暇付与日時点で週の所定労働時間が定まっている場合は、付与日時点での所定労働日数に応じた付与日数を与える必要があります。
1日の労働時間がバラバラな場合に支払う有給休暇取得時の賃金は?
シフト勤務の場合、1日の労働時間が5時間だったり、8時間だったりということがあるかと思います。こういう場合に有給休暇を取得した際の賃金はいくら払えばよいでしょうか。
有給休暇を取得した場合の賃金の支払い方法は、以下3つの方法から選択し、就業規則に記載しておく必要があります。
(1)通常支払うべき賃金
有給休暇を取得した日の所定労働時間に応じた賃金を支払うことになります。
例えば、木曜日は4時間、土曜日は8時間というシフト勤務の方がいたとします。
仮に時給1,000円の従業員であれば、木曜日に有給休暇を取得した場合は、4,000円を支払うことになり、土曜日であれば8,000円を支払うことになります。
所定労働時間分の賃金を支払うだけですので、給与計算はシンプルです。
(2)平均賃金
直近3か月の賃金の総額を暦日数で日割りした1日あたりの賃金を支払う方法です。
なお、最低保証額として、実際の労働日数で日割り計算した金額の60%を下回る場合は、こちらの金額を用いる必要があります。
年次有給休暇の取得の都度、直近3か月の平均賃金を計算する手間がありますので、給与計算が煩雑となる可能性があります。
(3)標準月額報酬
健康保険料の算定に使う標準報酬月額を日割りで計算する方法です。平均賃金を計算する方法より手間はかかりませんが、標準報酬月額は実際の賃金とは異なるため、(1)や(2)で計算する方法より金額が減る可能性がありますので、採用する場合には労使協定が必要です。 (3)標準月額報酬のケースを採用している企業は稀で、(1)通常支払うべき賃金か(2)平均賃金のいずれかを採用している企業がほとんどです。
では、1日の所定労働時間がバラバラの場合、(1)通常支払うべき賃金と、(2)平均賃金のどちらを選択すればよいでしょうか?
通常支払うべき賃金と平均賃金、どちらを選択すべき?
結論を先に記載しますと、どちらを選択するにしてもメリット・デメリットはあります。
【通常支払うべき賃金のメリット】
・その日の所定労働時間×時給で賃金を支払うので、給与計算が簡単。
【通常支払うべき賃金のデメリット】
・労働者の目線で見ると、日の所定労働時間が長い日に年次有給休暇を取得した方がお得という発想となり、会社はその日の代替要員を確保する手間が大きくなる。
【平均賃金のメリット】
・年次有給休暇取得時の給与額が、取得した日によって大きく変動することはなく、人件費の予測が立てやすい。
また、労働者の目線で見ると、日の所定労働時間が短い日に年次有給休暇を取得した方がお得という発想となり、年休を取得されても会社は代替要員を確保する手間が小さい。
【平均賃金のデメリット】
・平均賃金を計算する手間が発生する。
それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、自社に合ったルールを就業規則に定めましょう。
なお、年次有給休暇は労働日にしか請求することが出来ませんので、本来の流れとしては、先ず会社が勤務シフトを作成した上で、労働者は初めて年次有給休暇を請求することができます。(勤務シフトが確定しないと、どの日が労働日かわからないため)
しかし実務上では、勤務シフトを作成する際に、同時に年次有給休暇の取得希望日を確認されている会社もいらっしゃるのではないでしょうか?
その場合、年次有給休暇取得日の、元々の所定労働時間が決まらないまま、休暇を取得することになってしまいます。つまり「通常支払うべき賃金」の金額が計算できないということになります。
上記のケースでは、コンプライアンスやトラブル防止の観点で「平均賃金」を選択された方がよろしいでしょう。
パートやアルバイトが正社員になった場合の有給休暇は?
パートやアルバイトの方がフルタイムの正社員になった場合の有給休暇の付与日数はどうやって考えるべきでしょうか。
フルタイム正社員になったことで、週所定労働時間が5日に変更になりました。有給休暇の付与日数を決めるもう一つの要素は勤続年数です。勤続年数については、雇用形態の変更ではなく、労働契約が継続しているかどうかの実態で考えることになります。
つまり、アルバイトから正社員になったとしても、勤続年数がリセットされるようなことはありませんので、仮にアルバイトとしての雇用期間が3年あり、その後正社員となった場合に初めて付与される有給休暇の日数は10日ではなく、14日ということになります。
パートやアルバイトにも有給休暇5日取得させる必要あり?
2019年4月の働き方改革関連法案の施行にともない、年間5日以上有給休暇を取得させる義務があります。この法律は、パート・アルバイトであっても対象になりますので、年間10日以上有給休暇を付与した場合には、年間5日以上有給休暇を取得させる必要があります。
下表で赤枠内にある日数を付与した場合には、年間5日取得義務の対象となります。
パートやアルバイトの勤務日については、労働者からの出勤可能日を踏まえた上で、ギリギリの人数でシフトを組んでいる飲食店や小売店なども多いのではないでしょうか。こういった場合、なかなか有給休暇を取得させることが捗らないというケースもあるかと思います。シフト確定前に有給休暇の取得予定があるか確認するなど、有給休暇を取得しやすい環境作りをすることから始めてみてはいかがでしょうか。
また、有給取得の方法については、過去のブログでご紹介していますので、参照ください。
【参考】有給休暇の取得は進んでいますか?<後編> ~ 有休5日取得義務化から1年半、制度を改めてチェック!~(過去ブログ)
有給休暇に関する罰則
有給休暇に関する罰則は以下の通りとなっています。
なお、罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われるため、もし、有給休暇5日取得義務に違反した労働者が10人いた場合には、300万円の罰金となります。
労働基準監督署の監督指導では、すぐに罰則を適用するというわけではなく、有給休暇が取得できるように、是正に向けて丁寧に指導していくこととなっていますが、法律違反にならないように取り組んでいく必要があります。
今回は、間違えやすいパートやアルバイトの有給付与についてご紹介させていただきました。パートやアルバイトを雇用する企業様にとっては、同一労働同一賃金の問題などもあり、頭を悩ませることも多いかと思います。お困りごとがありましたら、専門家である社会保険労務士にご相談いただければと思います。
KING OF TIME 情報
2週にわたって有休付与対象者についてご紹介します。
今回は機能概要を、次回は付与方法をご案内いたします。
◆有休付与対象者とは
◆有給休暇付与機能の活用方法
有休付与対象者とは
雇用区分設定の[有休付与関連設定]を参照し、付与日と付与日数を自動計算します。
付与日が到来すると「有休付与対象者」のアラートでお知らせします。
有給休暇付与機能の活用方法
中途入社が多い企業は有給休暇の付与日がばらばらで、Excelなどの管理では対応が難しい場合があります。弊社の有給休暇付与機能を利用することで有給管理工数の削減にお役立てください。
ご利用の際は、以下の事前設定が必要です。
1. 設定 > その他 > オプション > スケジュール設定 > 有休休暇付与機能:使用する
2. 設定 > 従業員 > 従業員設定 > 対象従業員[編集] > 入社年月日の登録
事前設定が完了したら、企業の有休ルールを[有休付与関連設定]に登録しましょう。
【参考】「有給休暇付与機能」の設定方法(オンラインヘルプ)
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。