監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

今週のピックアップ
【 労務情報 】
◆ 基礎知識(Learning)
◆ よくある間違い(Trouble)
◆ 実践のポイント(Tips)
【 KING OF TIME 情報 】
◆ KING OF TIME 電子契約
基礎知識(Learning)
日ごろの業務において「秘密保持契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement)」を扱う機会はあるものの、具体的にどのような意義があり、どんな場面で活用されるのか、曖昧なままという方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、労務管理の視点も交えながら、秘密保持契約の基本を解説します。
①「秘密保持契約書」の法的意義
「秘密保持契約書」とは、自社の機密情報やノウハウ、個人情報などが外部へ漏えいしないよう、当事者間で秘密を守る義務を明確にする文書です。
企業間の取引で情報を開示する場合や、委託先と重要情報を共有する場面において、機密漏えいを防ぐ目的で締結されることが一般的です。
労務管理の観点では、従業員が業務上知り得た情報を外部に漏らした場合、企業の信用が失墜したり、損害賠償責任を問われるなど、さらに大きな問題に発展するリスクがあります。就業規則や労働契約に定める守秘義務だけでなく、「秘密保持契約書」(いわゆる秘密保持に関する合意書、誓約書)を別途締結し、機密情報の範囲や責任の所在を明確化しておくことが望ましいでしょう。
なお、法律上「秘密保持契約書」の作成や交付は義務付けられていませんが、書面(または電子書面)でルールを提示しておくことで、トラブルを未然に防止する効果が期待できます。
②「秘密保持契約書」の活用場面
「秘密保持契約書」は、新たなビジネス取引やサービス開発を検討する段階で、企業同士が重要な技術情報や経営情報をやり取りする際によく利用されます。
たとえば、共同開発や業務提携を行う前にアイデアやノウハウを共有する場面や、新サービスの企画段階で必要な情報を外部企業などに説明する場面が代表的です。
また、相手が企業でなくても、外部の専門家や個人事業主へ業務を委託する場合や社内においても、新製品の企画段階で従業員に機密情報を知らせる場合など、あらゆる情報共有のシーンで役立ちます。
近年では、従業員が扱う顧客の個人情報や企業の機密事項の管理が重視されており、労務管理の面でも秘密保持契約を締結する意義はますます高まっています。
【 参考 】秘密情報の保護ハンドブック [PDF]|経済産業省
③「秘密保持契約書」と労働契約秘密保持契約を結ぶ最大の目的は、企業が保有する機密情報を保護することです。とくに労働契約においては、在職中だけでなく退職後も一定期間の守秘義務を課すケースが一般的となっています。
ただし、従業員に対して対象となる秘密情報の内容や範囲を過度に広範な制約を科すと、労働契約とのバランスが問題になる可能性もあるため注意が必要です。就業規則や労働契約の記載と整合性が取れているか、機密保持について過剰な制限をかけていないか、確認することが大切です。
よくある間違い(Trouble)
① 秘密保持契約に違反した場合は、懲戒処分ができると思っている
秘密保持契約は、企業が従業員や取引先などに機密を守る義務を課す手段ですが、これに違反したとしても、必ず懲戒処分が認められるわけではありません。実際に懲戒処分を行う場合は、就業規則に定められた懲戒事由や手続きを遵守し、所定の要件を満たす必要があります。
たとえば、守秘義務違反による懲戒解雇や減給を行うためには、以下の要件が必要とされています。
1) 就業規則に「守秘義務違反は懲戒対象」と明記されている
2) 違反の事実関係を十分に調査・確認した
3) 処分の重さが社会通念上相当と認められる(過度な処分は無効)
「秘密保持契約に違反したから即懲戒処分」という安易な対応は、不当な処分として争いに発展する可能性があります。企業としてはまず事実を正確に確認し、就業規則や労働関係法令に基づく適切な手続き・手順を踏んだうえで、客観的かつ慎重に処分の可否を検討することが重要です。また、従業員に対しては、そもそも何が秘密に当たるのか、よく理解させておくことも大切なポイントです。
② 契約書の内容と運用が合っていない
秘密保持契約を締結していても、契約書に記載されたルールと実際の業務フローが一致していないケースは珍しくありません。
たとえば、契約書には「特定の担当者以外は機密情報にアクセスできない」と書かれていても、現場ではパート・アルバイトや外部委託先など多くの人が自由に閲覧できる状態なら、契約書上の管理体制と実態に大きな乖離が生じます。
こうした不整合があると、情報漏えいリスクが高まるだけでなく、万一問題が発生した際に「そもそも契約を遵守できる環境ではなかった」とみなされる可能性があります。さらに、守秘義務の範囲が曖昧なまま運用されていると、どの情報が機密なのかを従業員や委託先が正確に把握できず、結果として契約の実効性を損ねてしまいます。
③ すべての情報を「機密情報」とみなしている
秘密保持契約では、「何が機密情報に該当するか」をできるだけ明確に定義することが重要です。
一般的には、業務に関連する資料やデータ、取引先情報や技術情報などが機密情報に該当しますが、「社内のすべての情報」などのようにあまりにも広く、漠然と定義してしまうと、争いになった際に特定性が不十分だと判断されるおそれがあります。とくに公知の情報や既知の情報まで含まれると考えられる規定は、特定性を欠くとして無効とされるリスクもあります。
加えて、過度な制約は従業員に不安を与えたり、萎縮させることもあり、働きづらさにもつながるため、業務内容等の実態に照らし、必要な範囲を合理的に設定することを心がけましょう。
実践のポイント(Tips)
近年、契約業務の効率化、迅速化、コスト削減の観点から、秘密保持契約書(NDA)を電子化する動きが加速しています。
従来の紙ベースの契約では、印刷、製本、押印、郵送、物理的な保管といった手間と時間、コストが発生し、管理の煩雑さも課題でした。電子契約システムを導入することで、これらの課題を解決し、契約業務全体の生産性を大幅に向上させることが期待できます。
また、契約管理の高度化とセキュリティ強化も大きな利点です。電子化された契約書はシステムで一元管理されるため検索性が向上し、必要な情報を即座に確認できます。さらに、契約の進捗状況を可視化することで、管理業務の負担を軽減します。
電子署名やタイムスタンプは契約の真正性や非改ざん性を担保し、コンプライアンス強化にも貢献します。
「KING OF TIME 電子契約」での『秘密保持契約書の締結方法』は、以下のオンラインヘルプを参考にしてください。
KING OF TIME 情報
「KING OF TIME 電子契約」は、紙で行っていた契約業務をクラウドで完結することができるサービスです。
オンライン上ですばやく契約締結が可能で、印紙代や封筒代などのコスト削減に加え、 契約書の郵送や保管の手間を軽減することができます。
既存のインフラを活用しながら効率的に電子契約へ移行していただくことが可能です。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。