監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
社会保険労務士 岩下 等 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
社会保険労務士 岩下 等

今週のピックアップ
【 労務情報 】
◆ 幅広い分野で改正あり
◆ 法改正情報チェックのポイント
◆ 主な法改正のスケジュール(施行時期・概要)
◆ (2026年4月施行)子ども・子育て支援金新設
◆ (2026年4月施行)高年齢者関連:労災防止措置努力義務化・在職老齢年金見直し
◆ (2026年7月施行)障害者の法定雇用率引上げ
◆ (2026年中見込み)カスハラ・就活セクハラ防止措置の義務化
◆ (2027年10月見込み)短時間労働者関連:社保適用拡大
【 KING OF TIME 情報 】
◆ KING OF TIME 勤怠管理|アラート機能
幅広い分野で改正あり
2025年は育児介護関係の法改正があり、対応に追われた会社も多かったのではないでしょうか。2026年以降も、さまざまな法改正が予定(検討)されています。
大きな流れとしては、「人口減少社会への総合対応」を軸に、雇用・安全衛生・子育て・社会保障などさまざまな面からのアプローチが取られており、それに伴い制度改正が進められています。改正情報を幅広く押さえておきましょう。
※本メルマガの内容には、11月末時点で公表されている情報に基づく「見込み・予定・検討段階」の事項が含まれます。今後の政省令・指針等の発出により内容が変更される可能性があります。
法改正情報チェックのポイント
チェックする際に押さえておきたいのが「改正の現在地」です。施行日(効力発生)まで決まっているもの、法律は成立しているものの施行日が未定のもの、まだ検討・議論中のものなど、ひと口に改正情報と言ってもそのフェーズはさまざまです。こうした点も押さえて整理し、対応を計画的に進めるとよりスムーズです。
■法律が実際に施行されるまでの一般的なプロセスは、以下のとおりです。
①関連省庁や審議会等での検討・準備
②政府による法案の閣議決定、国会提出
③国会での審議・可決(法律の成立)
④法律の公布
⑤施行(法律が公布された後、定められた日から効力が発生)
主な法改正のスケジュール(施行時期・概要)
※「確定」=施行日まで決まっている
「見込み」=改正・公布済だが施行日は未定など
「検討中」=改正も未確定
※「全=全体」「高=高齢者」「短=短時間労働者(パート・アルバイト)」
全)2026年4月【確定】
・子ども・子育て支援金(新制度)開始
高)2026年4月【確定】
・在職老齢年金制度の見直し(支給停止基準額を62万円へ)
・高年齢労働者の労働災害防止措置(努力義務化)
全)2026年7月【確定】
・障害者の法定雇用率引上げ(2.7%へ)
全)2026年中【見込み】
・カスタマーハラスメント対策義務化
・就活セクハラに関する雇用管理上の措置義務化
※公布(2025年6月)から1年6か月以内
短)2027年10月【見込み】
・短時間労働者の企業規模要件の段階的撤廃(36人以上から段階的に適用)
全)2027年中【検討中】
・労基法大改正(労働時間制度の抜本的見直し案など)
※法案内容は2026~27年中に確定見込み
見込みや検討中のものでも、準備や対応に時間を要するものがあるため、早めにまずは検討に着手するとよいでしょう。
(2026年4月施行)子ども・子育て支援金新設
少子化が進む中、社会全体でこども・子育て世帯を応援していくため、「こども未来戦略」に基づき、児童手当など、こども・子育て政策の給付拡充が進められています。その財源確保のため「子ども・子育て支援金」の徴収が開始されます。
納付開始:2026年5月(4月分)から予定
徴収対象:医療保険加入者全員(国民健康保険、健康保険、後期高齢者医療保険など。個人負担の医療保険も含まれます)
負担割合:健康保険では労使折半(国民健康保険などは全額個人負担)
徴収方法:会社が従業員負担分を給与から控除し、会社負担分と合わせて徴収
料 率:労使合計は2026年度 約0.3% → 段階的引上げで、2028年度 約0.4%予定
算出方法:標準報酬月額(標準賞与額)×支援金の料率
なお、「子ども・子育て拠出金」は、保育の受け皿整備や幼保無償化など、主に保育・教育基盤の整備を目的とし、事業主が全額負担する仕組みです。支援金とは目的・対象・負担方法が異なります。
算定対象:厚生年金保険の加入者全員
負担割合:全額事業主負担(従業員負担なし)
徴収方法:事業主から厚生年金保険料と合わせて徴収
料 率:2025年度 0.36%
算出方法:標準報酬月額(標準賞与額)×拠出金の料率
参考: 子ども・子育て支援金制度について|こども家庭庁
(2026年4月施行)高年齢者関連:労災防止措置努力義務化・在職老齢年金見直し
定年後も働く高齢者が増加しています。安全・健康に働き続けられる職場環境の整備、年金を受給しながら働く方については働き控えを緩和などを目的に、以下が行われます。
(1)高年齢労働者の労働災害防止措置の努力義務化
(2)在職老齢年金制度の見直し
(1)高年齢労働者の労働災害防止措置の努力義務化
概ね60歳以上の高年齢労働者は労働災害の発生率が高く、災害が起きた際の休業期間が長くなっています。こうした状況を踏まえ、労働災害の防止のため、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理、健康管理などの措置を講ずることが事業者の努力義務とされます。
現在、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)においても、以下の取り組みが求められており、これを基に指針が検討されています。
・安全衛生管理体制の確立(リスクアセスメントの実施等)
・職場環境の改善(ハード・ソフト面の対策)
・高年齢労働者の健康・体力の状況把握
・安全教育
など
ひとたび労災が発生すれば、使用者責任(安全配慮義務違反)が問われ、損害賠償請求や行政指導を受ける可能性もあります。また、社会的信用の失墜や従業員の士気低下など、事業活動への影響も懸念されます。
努力義務ではありますが、上記のようなリスクへの対応、そして何より、労働者の安全や健康、継続して活躍してもらえる環境づくりを進めていきましょう。
参考: エイジフレンドリーガイドライン|厚生労働省
(2)在職老齢年金制度の見直し(62万円基準額の適用)
65歳以上で年金を受給しながら働く方については、現在、賃金と厚生年金の合計額が月51万円(支給停止基準額)を超えると、超過部分の半額に相当する年金が支給停止となっています。
2026年4月からは、この支給停止基準額が 51万円から62万円 に引き上げられます。
背景として、約30%の高齢者が「年金が減らないように働く日数や時間を調整している」という実態が指摘されており、働き控えが生じていることが課題となっています。今回の基準額引上げにより、働いた分だけ収入につながる環境が広がり、高齢者の継続就労を促進し、人手不足の緩和にも寄与することが期待されています。
■対応(例)
基準額引上げにより、高齢社員が働きやすくなるため、企業側でも以下のような取り組みがポイントとなります。
・就労条件の柔軟化
➡勤務日数・時間の調整、短時間正社員制度、再雇用制度の見直しなど。
・職務・配置の最適化
➡経験を活かした指導業務への配置や、体力に配慮した業務再設計。
・人材確保への活用
➡働き控えが減ることで、高齢人材を安定的に戦力化でき、人手不足対策にも有効。
制度改正を契機に、継続就労しやすい環境整備を進めることで、企業・労働者双方にメリットが期待されます。
参考: 在職老齢年金制度の見直しについて|厚生労働省
(2026年7月施行)障害者の法定雇用率引上げ
誰もが職業を通じて社会参加できる「共生社会の実現」に向け、障害者の職業選択の機会を広げ、その能力を適切に活用等することが推進されています。
企業には雇用機会の提供などが求められており、法定雇用率以上の障害者を雇用することが義務付けられています。
法定雇用率は、令和5年の法改正により、2026年7月から2.7% に引き上げられます。
これにより、たとえば 常時雇用する労働者だけの企業であれば38人以上(換算人数では37.5人以上)で少なくとも1人の障害者を雇用する必要があります。
また、対象となる企業は、毎年6月1日時点での「障害者雇用状況報告書」をハローワークへ提出することも義務付けられています。加えて、障害者の雇用促進と定着支援を図るため「障害者雇用推進者」の選任が努力義務とされています。
■法定雇用率
現行(2024年4月~):法定雇用率 2.5%
改正後(2026年7月~):法定雇用率 2.7%
➡法定雇用率引上げに伴い、企業が確保すべき障害者の人数が増加します。
法定雇用障害者数=(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)×法定雇用率(2.7%)
※端数切り捨て
※常時雇用する労働者(常用労働者)とは
・1週間の所定労働時間が20時間以上
かつ
・1年を超えて雇用されている、または1年を超えて雇用される見込みがある労働者
※短時間労働者とは
常用労働者数のうち、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満労働者
(短時間労働者1人=常用労働者0.5人相当としてカウント)
障害者の方の受け入れにあたって、どのような業務をどこまで任せるかの検討に始まり、支援体制の構築や働く環境の整備、既存の従業員への理解促進・研修、採用計画の検討・実施等、諸々の準備が必要となります。いずれも時間を要することが見込まれるため、早めに動き出し、対応を進めていくことが重要です。
参考: 障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について|厚生労働省
※令和6年の引上げ時の資料です。
参考: 障害者雇用のご案内|厚生労働省
(2026年中見込み)カスハラ・就活セクハラ防止措置の義務化
ハラスメント対策は、近年、社会の価値観や働き方の多様化などを背景に、企業が組織として取り組むべき重要課題と位置づけられています。防止措置の義務化が段階的に進められ、その対象範囲も広がってきました。
2025年6月の法改正により、以下についても、事業主に防止のための雇用管理上の措置が義務付けられることとなりました。施行時期は2026年中と見込まれています。
(1)従業員が顧客等から受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)
(2)求職者・インターン等に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)
(1)カスハラ対策の義務化
カスハラは、サービス業に限らず幅広い業種で顕在化しており、従業員の離職リスクやメンタル不調にもつながることから、企業の重要な労務リスクとして位置づけられています。以下の3つの要素をすべて満たすものです。
①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う、
②社会通念上許容される範囲を超えた言動により
③労働者の就業環境を害すること
特に近年は、土下座の強要、過度な要求、長時間のクレーム対応、SNSでの晒し行為など、対応が複雑化している事案も見られ、企業として「あいまいな対応」がかえってトラブルを拡大させるケースがあります。
今後、厚生労働省が定める指針(ガイドライン)で、以下の内容が示される予定です。
・事業主の方針の明確化および周知・啓発
・労働者からの相談(苦情を含む)に適切に対応するための体制整備と周知
・発生後の迅速かつ適切な対応・再発防止措置
(2)就活セクハラ対策の義務化
就活セクハラへの社会的注目が一段と高まっています。
学生や応募者は企業との関係性から、不利な立場になりやすく、被害を受けても声を上げにくい構造があるため、企業にはより慎重な対応が求められます。
こちらも事業主が講ずべき具体的な措置の内容等は、今後、指針において示される予定です。
・事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
・相談体制の整備・周知
・発生後の迅速かつ適切な対応
特に採用活動に関わる社員は、普段は人事担当ではない現場社員が対応することもあり、「何がハラスメントに該当するのか」「どこまでの質問が許容されるのか」などについて、十分に理解していないケースもあります。こうしたことも踏まえ、実務上、次の対策が重要です。
■対策(例)
・採用担当者向けの短時間研修の実施
・面接質問項目の明確化(禁止質問リストの作成)
・学生との接触(懇親会・インターン等)のルール化
・相談窓口を応募者にも開示
・SNSや私的連絡手段での対応禁止
参考: ハラスメント対策・女性活躍推進 に関する改正ポイントのご案内|厚生労働省
(2027年10月見込み)短時間労働者関連:社保加入対象拡大
短時間労働者(いわゆるパート・アルバイト)の社会保険の加入対象の拡大は、以下の2つの柱で進められています。
(1)「賃金要件の撤廃」
(2)「企業規模要件の段階的撤廃」
背景や目的としては以下のようなものがあります。
・月額8.8万円の要件が「年収の壁」となり、働き控えの要因となっている
・労働力不足が深刻化する中、労働参加を妨げない制度が必要
・非正規雇用者にも老後保障・医療保障を広げる
・全世代型社会保障の支え手を増やし、将来の年金制度の持続性を確保
現在、短時間労働者が社会保険の加入対象となるのは、「企業規模要件」を満たし、かつ以下の4つの要件をすべて満たす場合です。
①週の所定労働時間が20時間以上
②賃金が月額8.8万円以上「賃金要件」
③雇用期間が2か月を超える見込みがある
④学生でない
(1)賃金要件の撤廃(2028年6月までの間。早ければ2026年中見込み)
上記の要件のうち、②「月額8.8万円以上」の要件が撤廃される方向で進められています。
最低賃金の上昇により、週20時間働くと多くの地域で自然に8.8万円を超えることから、要件としての実効性が薄れているためです。
施行は公布日から3年以内(2028年6月まで)とされていますが、早ければ2026年中には施行される見通しです。
(2)企業規模要件の段階的撤廃(2027年以降、最終目標2035年)
企業規模による適用制限が段階的に撤廃され、最終的には、週20時間以上働く労働者はすべての企業で社会保険の加入対象となります。
現在は従業員51人以上の企業が対象ですが、2027年以降、段階的に引き下げられ、2035年10月まですべての企業規模で対象となります。
■企業規模要件の段階的撤廃(時期/対象企業規模)
2027年10月~/36人以上
2029年10月~/21人以上
2032年10月~/11人以上
2035年10月~/10人以下
※人数は社会保険の被保険者数
まだ少し先の話ではありますが、施行に向け、以下の対応を進めていきましょう。
■対応チェックリスト(例)
①影響範囲の把握
・週20時間以上の従業員を洗い出し、対象者数を把握
・自社の企業規模がどの段階で適用対象になるか確認
②費用影響の試算
・会社負担・従業員負担の保険料をシミュレーション
・労務コスト増加の見込みの整理
③従業員への周知と意向確認
・新たに対象となる従業員へ説明
・希望する働き方や労働条件との調整
④手続き対応
・社会保険加入手続き
・雇用契約書等の必要な見直し
⑤人員計画の見直し
・保険料負担を踏まえ、人員配置やシフトの見直し
・業務量に合わせた採用計画の調整
など
KING OF TIME 情報
2026年の法改正により、労働時間の管理や社会保険対象者の判定など、従業員管理がより複雑になります。
KING OF TIME の「アラート機能」を使えば、条件に応じたアラートで見落としを防止。
法改正への対応漏れや手続きミスを未然に防ぎ、管理業務の安心と効率化につながります。
活用の際には、以下のリンクもご参照ください。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。


