
働き方の多様化が進む現代では、業務量や季節の変動に合わせて労働時間を柔軟に設定できる働き方が求められています。その代表的な制度が「変形労働時間制」です。
この制度を導入すると、法律の範囲内で所定労働時間を柔軟に調整できるため、繁忙期には勤務時間を長く設定し、閑散期には短く設定するといった効率的な働き方が可能になります。ただし、柔軟に働ける反面、勤怠管理が複雑化するなどの課題もあります。
本記事では、変形労働時間制の基本的な考え方や種類、導入ステップ、勤怠管理のポイントを詳しく解説します。
❖ 変形労働時間制とは
❖ 変形労働時間制の種類
❖ 変形労働時間制を導入するメリットとデメリット
❖ 変形労働時間制導入の4つのステップ
❖ 変形労働時間制を導入する際の勤怠管理上のポイント
❖ 変形労働時間制を適切に運用するには「勤怠管理システム」が最適
❖ 変形労働時間制に対応した勤怠管理は「KING OF TIME」におまかせ
❖ 変形労働時間制を正しく運用して効率的な働き方を実現しよう
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて労使が労働時間を調整し、全体的な労働時間の効率化を図る制度です。一定期間における労働時間の週平均が40時間以内であれば、特定の週や日に法定労働時間を超えて働くことができます。
労働基準法の基本的な定めでは、1日8時間、週40時間を超える場合は時間外労働として扱われます。一方、変形労働時間制を導入すると、労使協定や就業規則で定めた範囲内で、繁忙期は所定労働時間を長くし、閑散期は短くするなど、業務量に応じた勤務時間の配分が可能になります。例えば、労使協定や就業規則で所定労働時間を10時間と定めた日であれば、その時間までの勤務は時間外労働に該当しないということです。
この仕組みにより、年間を通しての労働時間の平準化を図りやすくなります。
変形労働時間制の種類
変形労働時間制は、適用期間の長さによって大きく3種類に分けられます。また、従業員自身が労働時間を調整できる「フレックスタイム制」を加えると、計4種類に分類されます。
| 1か月単位の変形労働時間制 | 1年単位の変形労働時間制 | 1週間単位の非定型的変形労働時間制 | フレックスタイム制 | |
|---|---|---|---|---|
| 労使協定の締結 | ◯(就業規則への明記があれば不要) | ◯ | ◯ | ◯ |
| 労使協定の監督署への届出 | ◯ | ◯ | ◯ | |
| 事業・規模の条件 | ◯ | |||
| 休日の付与日数と連続労働日数の制限 | 週1日または4週4日の休日 | 週1日(連続労働日数は6日) | 週1日または4週4日の休日 | 週1日または4週4日の休日 |
| 1日の労働時間の上限 | 10時間 | 10時間 | ||
| 1週の労働時間の上限 | 52時間(3か月超の場合回数制限あり) | |||
| 1週平均の労働時間 | 40時間(特例44時間) | 40時間 | 40時間 | 40時間(特例44時間) |
| 時間・時刻は会社が指示する | ◯ | ◯ | ◯ | |
| 出退勤時刻の個人選択制 | ◯ | |||
| 就業規則等で時間・日を明記 | ◯ | ◯ | ||
| 就業規則変更届の提出 (10人以上) |
◯(10人未満の事業場でも準ずる規程が必要) | ◯ | ◯ | ◯ |
参考: 変形労働時間制|厚生労働省徳島労働局
なお、それぞれの制度には適した業種や運用ルールがあるため、導入前に理解しておくことが重要です。
◇ 1か月単位の変形労働時間制
1か月単位の変形労働時間制では、1か月以内の一定期間を対象とし、期間全体の労働時間が週平均40時間以内に収まれば、特定の日に8時間を超えて勤務することが可能です。
月初めや月末などの「ある週だけ業務が集中する」形態に適しており、月末の週だけ1日9時間、それ以外は7時間というように、短いスパンでメリハリをつけた運用ができます。宿泊業やサービス業、介護職など、繁忙日が比較的予想しやすい業界で活用されることが多い制度です。
参考: 1か月単位の変形労働時間制|厚生労働省
◇ 1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制では、1か月を超え1年以内の期間を対象とし、年間を通して労働時間の週平均が40時間以内になるよう計画します。制度の適用にあたっては、労働時間が1日10時間、週52時間、年間労働日数が280日、連続勤務日数が6日までといった上限が細かく定められています。
農業や観光業のように繁忙期と閑散期の差が大きい業界では、年間スケジュールに合わせて労働時間を割り振れるため、実務に取り入れやすい仕組みです。そのほか、製造業や建設業などでも広く活用されています。
参考: 1年単位の変形労働時間制導入の手引|東京労働局
◇ 1週間単位の非定型的変形労働時間制
1週間単位の非定型的変形労働時間制は、1日の労働時間を10時間以内、週全体の労働時間を40時間以内で調整できる点が特徴です。例えば、土日に各10時間働き、平日の3日間は各5時間働くなどが可能になります。
ただし、どの企業でも導入できるわけではありません。小売業・旅館・料理店・飲食店が対象で、従業員が30人未満の事業場に限定して導入が認められています。また、導入には各従業員の同意が必要です。
週単位で決められるため、日によって客数に変動があり、なおかつ予測がつきにくい企業に向いています。
参考: 1週間単位の非定型的変形労働時間制 (法第32条の5)|労働基準監督署
◇ フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、あらかじめ設定した一定期間(清算期間)における総労働時間の範囲内であれば、労働者自身が1日の始業・終業時刻を柔軟に決められる働き方です。
1日8時間や週40時間を超えて働いた日があっても、その時点で即座に時間外労働とはみなされません。清算期間における実際の労働時間が、その期間の法定労働時間の総枠を超えた分が時間外労働として扱われます。
フレックスタイム制は、変形労働時間制と同様に労働時間を柔軟に運用できる制度ですが、先に紹介した3つの制度とは異なり、従業員自身が始業・終業時刻を決められる点が大きな特徴です。
必ず勤務する「コアタイム」と、出退勤を柔軟に調整する「フレキシブルタイム」とで構成されています。業務の進め方を個々に委ねやすいため、エンジニアやデザイナーなど、裁量をともなう職種での導入が進んでいます。
参考: フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
変形労働時間制を導入するメリットとデメリット

変形労働時間制は、単に労働時間を柔軟に調整できる制度というだけでなく、休暇が取りやすくなるなど企業側にも従業員側にもさまざまな利点があります。
一方で、従業員への過度な負担につながる可能性もあるため、正しい理解と適切な運用が不可欠です。ここでは、メリットとデメリットの両面を詳しく見ていきましょう。
◇ 変形労働時間制導入のメリット
変形労働時間制を導入すると、企業は繁忙期と閑散期の業務量に応じて、日や週ごとの労働時間を柔軟に配分できるようになります。繁忙期にあらかじめ所定労働時間を長めに設定しておくことで、時間外労働の発生を抑えられ、残業代を含む人件費の削減が期待できます。
また、業務状況に合わせて勤務時間を調整できるため、業務効率や生産性の向上にもつながるでしょう。従業員にとっても、閑散期に労働時間が短く設定されることで休暇を取得しやすくなり、柔軟な働き方を実現できる点は大きなメリットです。
働きやすさの向上は、ワークライフバランスの改善や従業員満足度の向上にもつながり、離職率低下やモチベーションアップが期待できるでしょう。
◇ 変形労働時間制導入のデメリット
変形労働時間制を導入するには、勤務実態の把握や就業規則の改定、労使協定の締結、所轄労基署への届出など、導入前に一定の手間がかかります。運用後は清算期間内の総労働時間管理や時間外労働の判定が複雑になるため、残業代の計算や勤務管理を誤ると、労働基準法違反となるリスクもあります。
また、繁忙期には長時間勤務や休日出勤が必要になる場合もあり、従業員の負担が増える可能性がある点にも注意が必要です。制度への理解が不十分な場合、「働いているのに残業代が支払われない」といった誤解や不満が生じるおそれもあります。
そのため、導入後は説明会や資料配布などを通じて制度の目的や運用ルールを丁寧に周知し、従業員が負担を感じていないか確認しながら運用していくことが重要です。
変形労働時間制導入の4つのステップ

変形労働時間制を導入するには、まず自社の勤務実態を把握し、どの期間にどの程度の労働時間を設定すべきかを明確にする必要があります。制度が実情に合わなければ効果が出にくいため、導入前の準備を丁寧に進めることが重要です。
ここでは、導入までの流れを4つのステップに分けて説明します。
◇ 1.勤務状況を確認し対象者を決める
導入の第一歩として、企業は従業員の勤務実態を把握する必要があります。部署や職種ごとに、繁忙期と閑散期の差や業務量のばらつきを分析し、変形労働時間制の導入が妥当かどうかを検討しましょう。
どの部署、または対象者に導入するのかを検討しますが、特に、繁忙期と閑散期の差が大きい部署ほど効果を得やすいといえます。また、繁忙期にどの程度の労働時間や人員が必要になるかも明確にしておきましょう。
◇ 2.適用する期間や労働時間を決める
制度を適用する部署や対象者が決まったら、次に制度を適用する期間や労働時間など、具体的な条件を設定します。変動させる労働時間を決める際は、まず対象期間の総労働時間を算出し、週平均で法定労働時間の40時間以内に収まるように設計することが必須です。
特に、労働時間が長くなる繁忙期については、休憩時間や勤務間インターバルの確保など、従業員の健康面に配慮することも大切です。なお、設定した条件は労使協定や就業規則に記載する必要があり、原則として途中で変更できません。そのため、次の手続きに進む前に十分に検討して決める必要があります。
◇ 3.事務手続きを行う
条件が決まったら、制度の運用に向けて必要な事務手続きを行います。おもに必要となる手続きは次の3つです。
・就業規則の改定
・労使協定の締結
・労働基準監督署への届出
1か月単位の変形労働時間制の場合は、就業規則を改定すれば労使協定の締結は省略可能です。
労使協定の有効期間は、例えば1年単位であれば1年以内で設定し、期間満了ごとに新たに締結して届出が必要です。制度を導入しても時間外労働が発生する可能性はあるため、必要に応じて36協定(時間外・休日労働に関する協定)の届出も行いましょう。
◇ 4.従業員に周知し運用を開始する
運用ルールや導入体制が整ったら、従業員向けの説明会などを実施し、制度の目的や運用方法を周知します。メリットだけでなくデメリットもしっかり伝え、従業員の納得を得ることが大切です。また、導入直後の疑問や相談に対応できる体制も整えておくことが望ましいでしょう。
導入後は運用状況や効果を定期的に確認し、現場の声を反映させながら改善していくことが求められます。
変形労働時間制を導入する際の勤怠管理上のポイント
変形労働時間制を運用する際は、勤怠管理の方法を理解し、制度に合わせた管理体制を整えることが不可欠です。ここでは、残業時間の考え方と部署ごとの運用、勤怠管理の複雑さに備えるポイントを解説します。
◇ 残業時間の考え方に注意をする
変形労働時間制を適用する場合、残業時間の計算は、次のように、日の単位・週の単位・期間全体の単位で計算します。
➀ 1日の法定時間外労働:労使協定で1日8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
➁ 1週の法定時間外労働:労使協定で1週40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は1週40時間を超えて労働した時間(①で支払った分を除く)
➂ 対象期間の法定時間外労働:対象期間の法定労働時間総枠を超えて労働した時間(①、②で支払った分を除く)
1日および1週単位で発生した時間外労働は通常どおり毎月計算して支払います。一方、変形期間の総労働時間を超えた分については、期間が終了した時点でまとめて算出し、追加で支払うことになります。
◇ 部署ごとに異なる運用をする
部署によって繁忙期が異なる場合は、変形労働時間制を部署単位で別々に設定することも可能です。対象となる部署ごとに期間や労働時間の条件を定め、必要に応じて労使協定を締結し、労働基準監督署へ届出を行います。
ただし、部署ごとに勤務時間が変わると、部署間の連携に支障が出ることもあります。円滑に運用するためには、勤怠状況の把握や休暇などの申請対応をスムーズに行える体制を整えることが重要です。
◇ 勤怠管理の複雑化に備える必要がある
変形労働時間制は、繁忙期と閑散期に合わせて勤務時間が変動することが特徴です。そのため、部署や従業員ごとに勤務時間が異なり、かつ時期によっても変動します。その結果、勤怠管理が複雑になり、誤った労働時間の集計や残業時間の計算ミスなどが起こりやすいことが課題です。
手作業での管理では、残業時間の未払いといった法令違反につながるリスクも高まるため、勤怠管理システムの導入など、労働時間の集計や管理を効率化できる体制を整えることが求められます。
変形労働時間制を適切に運用するには「勤怠管理システム」が最適

変形労働時間制を導入すると、勤務時間や残業の集計が複雑化し、手作業での管理は負担が大きく、ミスも増えやすくなります。そのため、勤怠管理システムの活用が非常に効果的です。
制度に対応した勤怠管理システムであれば、変形期間に合わせた自動集計や労働時間の可視化、残業時間のアラート通知などが可能になり、管理業務の手間を大幅に削減できます。残業申請や休暇申請もシステム上で完結するため、部署ごとに勤務時間が異なる場合でも情報を簡単に共有できます。
ただし、すべての勤怠管理システムが変形労働時間制に対応しているわけではありません。自社の就業規則や法令に沿った設定が行えるかどうかを確認したうえで導入することが重要です。
変形労働時間制に対応した勤怠管理は「KING OF TIME」におまかせ
クラウド勤怠管理・人事給与システム「KING OF TIME」は、1人当たり月額300円と低コストで導入しやすいシステムです。
変形労働時間制に完全対応しており、月単位、年単位、週単位の各パターンが柔軟に設定可能です。また、1~3か月単位のフレックスタイム制にも対応しており、すべての機能が月額費用に含まれています。
さらに、労働時間や残業時間を自動集計し、給与計算にも反映できるため、人事担当者の負担を抑えることが期待できます。法改正や利用者の要望に応じて定期的にバージョンアップされるため、法令違反のリスクも軽減可能です。30日間の無料体験を利用することで、操作感や効果を確かめてから導入を決められることも魅力です。
変形労働時間制を正しく運用して効率的な働き方を実現しよう
業務量の変動に応じて勤務時間を調整できる変形労働時間制は、企業と従業員の双方に大きなメリットがあります。
ただし、この制度を効果的に活用するには、法令を守り、正確な勤怠管理を行うことが前提です。制度に対応した、十分な機能を備えた勤怠管理システムを導入すれば、勤務時間や残業の自動集計、部署間の情報共有がスムーズになり、管理負担を減らすことにもつながります。
制度を正しく運用して労働時間を最適化し、生産性の向上と従業員にとって働きやすい職場環境の両立を目指しましょう。
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