監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

今週のピックアップ
【 労務情報 】
◆ 基礎知識
◆ よくある間違い
◆ 実践のポイント
【 KING OF TIME 情報 】
◆ KING OF TIME 電子契約
基礎知識
①「請負契約書」の法的意義
「請負契約書」は、受注者(請負人)が特定の仕事を完成させ、その成果物に対する報酬支払いを発注者(注文者)が約束する契約です。
建設工事・製造請負・ソフトウェア開発など、成果物が明確な取引で広く利用されます。書面作成は法的義務ではありませんが、仕事内容・納期・検査基準・報酬といった重要な事項を文書化することで、後日の紛争リスクを低減できます。
また、業務委託契約や準委任契約など、契約形態が似通ったケースと混同されることも珍しくありません。「業務委託契約」という言葉には法律上の定義がなく、実務上は、請負契約か準委任契約のいずれかに該当します。
「準委任契約」は、請負契約が成果物の完成・引き渡し義務を伴う点が大きな特徴であるのに対し、作業や事務の遂行自体が契約の目的となります。そのため、契約の対象が「仕事の完成」なのか「作業の遂行」なのかを、当事者間で明確に区別しておくことが重要です。
②「請負契約書」の活用場面
建設設備の据付やシステム開発など、「完成物の引渡し」によって契約が完結するケースが典型例です。IT分野では、完成後のバグ修正や保守範囲を巡る争いが多く、費用負担や追加工期の問題に発展しがちです。そのため、業務範囲や納品の判定基準、追加対応の手順などを明確に定め、リスク分担を事前に合意しておくことが重要です。請負契約は成果物の明確化が前提であり、納品検査や契約不適合時の補修責任も十分に協議したうえで取り決め、契約書に盛り込む必要があります。とりわけ工期や予算の制約のある案件では、仕様変更時の追加費用や完成期日の調整ルールを事前に固めることで、認識の齟齬等によるトラブルの防止が期待できます。
③「請負契約書」と他の契約書との違い
請負契約では、納品される完成品が「契約で決めた品質や仕様」に合っているかどうかが最も重要です。もし完成品が契約内容と違う場合は、注文を受けた側(受注者)が修理や賠償などの責任を負うことになります。一方、準委任契約は「作業そのものを行うこと」が目的なので、完成品に対する責任は限定的です。たとえば、成果の完成を前提とせず、作業の実施過程に対する注意義務を負うに留まるなどといったケースもあります。
また、実際には発注企業が詳細な指示や管理を行っているにも関わらず、形だけ「請負契約」として契約を結んでいると、「偽装請負契約」とみなされるおそれがあります。偽装請負とみなされた場合、労働者派遣法等に違反していると判断され、行政から契約内容の是正を求められたり、罰則を受けたりする可能性もあるため、契約形態の選定と実態との整合性には十分な注意が必要です。
よくある間違い
①「請負契約書」をそもそも取り交わしていない
小規模な製造案件やデザイン制作などでは、口頭や簡単な発注書のみで請負契約を行う事例が少なくありません。納期や報酬、修正対応の範囲が曖昧なまま業務を始めると、完成物の品質や完成時期をめぐるトラブルが発生しても、当初の合意内容が立証しにくくなります。とくに工期が延びたり追加作業が発生したりした場合に、どの範囲が本来の契約対象に含まれていたのかを後から明らかにするのが難しくなるため注意しましょう。
また、取引内容や資本金によっては下請代金支払遅延等防止法の適用を受け、発注者(親事業者)には契約内容を記載した書面の交付義務などが課される場合があるためご注意ください。
②完成検査や修補義務について明確に定めていない
請負契約は結果に対する責任が特徴です。完成後に不備が見つかった場合、受注者が無償で修補対応を行う義務を負うかどうか(担保責任の有無)は、契約上の取り決めに大きく左右されます。しかし、完成検査の方法や引き渡し時の確認手順を定めずに運用していると、修理対応や追加工事の費用負担をめぐってトラブルに発展しやすくなります。
なぜなら、たとえば、システム開発で「テスト後のバグは無償で修正する」と合意していても、そのバグの定義や、仕様変更との境界が曖昧だと、費用負担に関する認識が双方で異なることも起こりうるためです。完成後の検査方法、引き渡し基準、修補対応期間など、事前に想定されるシナリオを洗い出して契約書に反映しておくことが重要です。
③契約期間や追加工事・変更契約に関する手続きを怠っている
請負契約では、当初の計画に対して、途中で変更や追加作業が発生することは珍しくありません。
工期の延長や仕様変更などが発生した場合には、それに応じて、追加契約(追加発注)を明確に取り交わすことが必要です。しかし、実務上では口頭でのやり取りに留まり、正式な契約書への反映を怠ってしまうケースも多く見られます。
また、契約の終了について、「いつ終了するのか」や「何をもって終了となるのか」が曖昧なままだと、発注者と受注者の間で責任の範囲にズレが生じるおそれがあります。
たとえば、「もう契約は終わったと思っていたのに、追加対応を求められた」といったトラブルにつながる可能性があるため、「契約期間の終了日なのか」「完了検査が終わった時点なのか」など、契約の終わり方(終わらせ方)を明確に決めておくことが重要です。
さらに、法改正や企業の方針の転換に伴い、契約内容を定期的にチェックし、必要に応じて条項の見直しや変更合意書を作成するなど、最新の状況に合わせた内容にしておくことがトラブル防止や双方の信頼関係維持の観点からも大切です。
実践のポイント
成果物の完成と引き渡しを目的とする「請負契約書」の電子化は、契約業務の効率化、コスト削減、コンプライアンス強化に大きく貢献し、建設工事からソフトウェア開発まで多岐にわたる取引に有効です。
紙ベースで行っていた煩雑な契約手続き(契約書の作成、印刷、仕様書や図面といった関連書類の準備、押印、郵送、相手方での確認・押印・返送、そしてファイリング)がオンライン上で完結するため、一連の手続きのリードタイムが大幅に短縮されるほか、電子データとして一元管理されるため、過去の契約書や関連資料の検索・閲覧も容易になります。
また、「請負契約書」は契約金額に応じて印紙税の課税対象となる代表的な文書ですが、電子契約で締結する場合はこの印紙税が原則として不要になります。これはとくに高額な契約や多数の契約を締結する企業にとって非常に大きなコストメリットです。その他、用紙代、印刷費、郵送費、さらには契約書の物理的な保管スペースや管理にかかる人件費の削減も期待できるでしょう。
この機会に「請負契約書」の電子化を検討してみてはいかがでしょうか。
「KING OF TIME 電子契約」での『請負契約書の締結方法』は、下記のリンクをご参考ください。
KING OF TIME 情報
請負契約書の締結方法の電子化には、「KING OF TIME 電子契約」の活用が有効です。
印刷・郵送・回収といった煩雑な手間を省き、遠隔地の取引先ともオンラインでスムーズに契約を締結できます。ペーパーレス化による業務効率化とコスト削減を実現し、安心・確実な契約管理をサポートします。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。