監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
社会保険労務士 岩下 等 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
社会保険労務士 岩下 等

今週のピックアップ
【 労務情報 】
◆ 令和7年度の最低賃金の動向
◆ この先どうなる?
◆ 最低賃金引き上げの意図とそれらを踏まえた会社対応
◆ 最低賃金の種類
◆ 最低賃金の対象となる賃金
◆ 最低賃金のチェック方法
◆ 間違いやすいポイントと実務上の対応
【 KING OF TIME 情報 】
◆ KING OF TIME 勤怠管理|人件費概算出力機能
令和7年度の最低賃金の動向
令和7年9月5日、厚生労働省は令和7年度の地域別最低賃金の改定額について、地方最低賃金審議会の答申を取りまとめ、公表しました。
答申された改定額は、一定の手続きを経て、最終的に都道府県労働局長の決定により、令和7年10月1日から令和8年3月31日までの間に順次発効される予定です。
【 答申のポイント 】
・47都道府県で、63円~82円の引上げ
・全国加重平均額は1,121円で昨年度より66円増。(昭和53年度以降の最高額)
・最高額(1,226円)に対する最低額(1,023円)の比率は83.4%(昨年度は81.8%。11年連続で改善。地域間の差が縮小してきている)
・47都道府県中39道府県が、中央審議会の目安を上回る引き上げ額で答申(前年は27県)
・最低賃金の発効日(適用日)は、通常は10月が一般的だが、11月~3月にも広く分散。
【参考】全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました|厚生労働省
この先どうなる?
経済や社会情勢を踏まえ、下記のように政府目標等が示されてきました。
実際に全国加重平均1,000円を達成するまでは、(コロナ流行の2020年を除き)毎年約3%、平均30円程度上昇し続けてきました。1,000円達成後は、新たに1,500円という目標が示され、その時期は当初の2030年代半ばから、現在では2020年代中と前倒しされています。
これを実現するための試算は以下のとおりです。
2020年代中 (2029年と仮定)の場合:毎年約8%、平均で95円程度の引き上げ
2030年代半ば(2035年と仮定)の場合:毎年約3%、平均で40円程度の引き上げ
■ 政府目標等経緯
2015年~:早期に全国平均1,000円(毎年約3%の引き上げ)
目的はデフレ脱却、格差是正、消費拡大など
2023年~:【全国平均1,000円を達成】
2030年代半ばまでに1,500円(新たな目標)
目的は賃金・成長の好循環、国際比較改善、少子化対策など
2024年〜:2020年代中に1,500円(達成時期の前倒し)
目的は物価高対応、中小企業改革、賃上げ定着など
最低賃金引き上げの意図とそれらを踏まえた会社対応
今後も最低賃金引き上げの継続が見込まれます。加えて、人材の確保や定着などのためにも賃金水準の見直しは避けられません。そのための原資の確保は、多くの会社にとって喫緊の課題といえるでしょう。
最低賃金の引き上げは、単にコスト増を意味するだけではなく、会社に「何が求められているのか」を示すシグナルでもあります。これを持続的な成長のきっかけと前向きに捉えることが重要です。
以下に、検討のポイントや実行を支援する助成・補助金や支援策も合わせ簡単にご紹介します。
■ 会社に求められる主な対応
① 持続的な賃上げ
単発の昇給ではなく、毎年継続できる体制づくりが必要です。
例:「賃上げ促進税制」では、給与総額を前年より増やした会社に税額控除が用意されています。
② 生産性向上・省力化
労働時間に依存しない利益構造を築くことが求められています。
例:「業務改善助成金」や「省力化投資補助金」により、DX(デジタル化)や自動化投資の後押しを受けられます。
③ 価格転嫁
人件費や原価上昇を価格に反映することも推進されています。
例:「パートナーシップ構築宣言」や下請法の厳格運用により、公正な取引が促されています。
④ 人材への投資
人材をコストではなく資本と捉える視点(人的資本経営)が求められています。
助成金申請の要件として研修や就業規則の整備が条件となることも多く、人材育成や制度整備が不可欠です。
⑤ 経営の再編・統合
小規模のまま残るのではなく、スケールメリットを活かす方向性が推奨されています。
例:事業承継支援、M&A支援、共同申請型補助金などの支援策が用意されています。
最低賃金の種類
ここからは実務的な対応と基本事項の説明です。
まず、最低賃金の種類についてです。種類は以下のとおり2種類があります。
① 地域別最低賃金
都道府県ごとに定められています。
すべての労働者とその使用者に対し、原則として事業場所在地の最低賃金が適用されます。
② 特定最低賃金
特定地域内の特定の産業ごとに定められています。
そこで働く労働者(18歳未満又は65歳以上の方などを除く)とその使用者に適用されます。
なお、両方の最低賃金が適用される場合、使用者は高い方の最低賃金額以上を支払う必要があります。
最低賃金の対象となる賃金
毎月支払われる賃金から、下表の(1)~(6)の賃金を除外したものが最低賃金の対象です。 特に注意したいのが、毎月支払われる手当であっても、(6)の精皆勤手当、通勤手当および家族手当は対象外となる点です。 (精皆勤手当は、割増計算の基礎には含まれる点もご留意ください。)
最低賃金のチェック方法
最低賃金のチェック方法について、ポイントは以下のとおりです。
① 日給、月給、出来高給(歩合給、インセンティブなど)は、1時間あたりの金額を算出して最低賃金額(時間額)と比較します。
1時間当たりの金額の算出方法は以下のとおりです。
・日給 :日額 ÷ 1日の所定労働時間数
・月給 :月額 ÷ 1か月の平均所定労働時間数
・出来高給:出来高給 ÷ 1か月の総労働時間数
② 日給について、特定(産業別)最低賃金が適用される場合は、日給 ≧ 最低賃金額(日額)となるか確認します。
④ 出来高給について、「1か月の総労働時間数」は、残業なども含めた実際に働いた合計の時間数です。
⑤ 基本給が時給や日給で、月額の手当がある場合は、それぞれ1時間当たりの金額を算出してその合計額と最低賃金額(時間額)を比較します。
間違いやすいポイントと実務上の対応
① 給与引き上げのタイミング
1か月の賃金計算期間の途中に新しい最低賃金の発効日(適用日)がある場合、発効日までは旧賃金、発効日以降は新賃金が適用されます。
例)
・10月末日締め・11月25日支払いで発効日が10月4日の場合、4日までは旧賃金、5日以降は新賃金。
・同じケースで発効日が10月25日の場合、最後の数日分のみ新賃金で計算が必要。
※つまり「すべて翌月分から適用」とはならない点に注意が必要です。
対応策としては、コスト(発効日から締め日までの日数)との兼ね合いはありますが、実務的には計算期間の初日から新しい最低賃金で統一して計算すると、手間が一度で済み効率的です。
② 最低賃金以下の合意
会社が労働者と合意して最低賃金未満の賃金を定めたとしても、その合意は法律上無効となり、最低賃金額と同額を定めたものとみなされます。
例えば、4月に給与改定や契約更新を行い、1年間の雇用契約を締結した場合に、その時点では最低賃金を上回っていたとしても、契約期間中に最低賃金が引き上がったことにより、下回った場合は、改定日以降は新しい最低賃金額での支払いが必要です。
対応策としては、以下検討できます。
・給与改定や契約更新の時期を10月に合わせる
・最低賃金の上昇率(例:8%程度)を見込んで改定する
・必要に応じて10月に再度給与改定を行う
実務上は、給与改定や契約更新を10月に設定するのが最も効率的です。難しい場合は、毎年度の改定額を確認し、下回らないよう随時調整することが不可欠です。
その他、最低賃金に関するポイントについては、以下もご参考ください。
【参考】よくあるご質問|厚生労働省
最低賃金に関する間違えやすいポイントなどに注意しながら、気付かないうちに法令違反とならないよう、適正に賃金の改定をおこない、それに基づき給与計算・支払いを行いましょう。
KING OF TIME 情報
勤怠管理の人件費概算出力機能では、従業員の時給単価を設定し、現状の勤務時間や勤務予定時間をもとに人件費の概算を計算できます。これにより、労働時間や人件費を踏まえて勤務予定を立てやすくなります。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。